「自然畏怖する伝統、災害続く時代にこそ」

 

狂言師 野村萬斎氏

 

数百年にわたる歴史を誇る能楽の世界に身を置く野村萬斎氏(53)。世界各地の伝統芸能の根底には自然に対する畏怖の念が込められており、異常気象や災害が続く時代にこそ顧みるべき思想がある、と説きます。

 

野村萬斎氏(のむら・まんさい) 和泉流狂言方。1966年東京都生まれ。東京芸大卒。現代劇の俳優としても活躍。2002年から東京・世田谷パブリックシアター芸術監督。東京五輪・パラリンピックの開閉会式演出の総合統括も務める。

 

――2030年の世界の姿は。

能楽について言えば、未来を楽観してはいません。華やかなエンターテインメントではありませんし、将来、人間が地球以外の星への開発や移住を始めたとき、伝統芸能は連れて行ってもらえないのでは、とも思います。

2030年には、演劇などのライブパフォーマンスが、3D映像で個々の人々に配信される時代になっているかもしれません。私はいま、世田谷パブリックシアターという公共劇場の芸術監督も務めています。劇場とは、自分の生存を確認し、生きることについて考える場であるととらえています。これまでも、これからも、舞台芸術はやはり、他の人々と共に鑑賞して、その熱が舞台にも伝わるものです。

 

――あなたは世界をどう変えますか。

伝統芸能の根底には、自然に対する畏怖の念があります。人間以外の存在への崇拝やおそれもあります。これは世界各地の芸能にも共通します。災害や異常気象などが続く時代にこそ、顧みられるべき姿勢であり、思想でしょう。能も、死者との対話を通じて、生を考えるものです。狂言は一緒に笑うことで、生を謳歌します。そうしたことを、10年後も世界中の皆さんに伝えていきたいです。2030年には、還暦を過ぎ、私は芸歴60年を迎えます。体力まかせではなく、芸に精神性を映し出せるようになりたいですね。

 

 

 

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