エッセー
おみくじの運勢
作家 嵐山光三郎
正月に近くの天満宮でひいたおみくじは「凶」だった。運勢の項に「悩みごとあり思うにまかせません。すべて控(ひか)え目にときのくるのを待て」とあった。「その通りだ」と思ったが、念のためもう1回ひくと、「中吉」だった。執念ぶかくひいて5回めに「大吉」が出たので、それぞれのおみくじを4つに折って持ち帰った。
おみくじの運勢は12項目あって(1)願事(ねがいごと)、(2)待人(まちびと)、(3)失物(うせもの)、(4)旅行、(5)商売、(6)学問、(7)方向、(8)争事(あらそいごと)、(9)転居、(10)お産、(11)病気、(12)縁談、である。神社によっては(13)求人(きゅうじん)が入る。町の手相見より多くの事項を調べてくれる。託宣の種類は、おおよそ大吉、中吉、小吉、吉、末吉、凶、小凶、大凶の8種ある。ひと昔前は番号のついた串をひく「振(ふり)くじ」が多かったが、いまは箱から直接みくじをひく「つかみ出し」や自動販売機が多くなった。
別の八幡宮で半凶というのが出た。半凶のみくじには「氷った池にすむ魚の如し。今は活動の時期にあらず」とあり、「天運未(いま)だ盛んならず。にわかに進むべからず。万事慎(つつし)みて務(つと)め行かば、追々氷解(と)けて後(のち)には吉となる。急がば成就せず」。
大吉のみくじには「願望遂(がんもうと)げ事業挙(あが)り学問上達すべし。人より親しみ敬(うやま)われ、尊情(そんじょう)より恵(めぐみ)を受くべし。されど人の嫉(ねた)み妨(さまた)げを受くる傾(かたむ)きあり。用心すべし」とあった。両方とも名文であるが、吟味熟読すると半凶のほうがいい。こうなるといろいろためしたくなり、東京の神社仏閣を参拝してみくじをひきまわった。これが面白くて、やめられない。じつは前からやりたい企画がひとつあった。その話は来週に。