国連でも影響力拡大図る中国
中国は国連安全保障理事会で拒否権を持つが、それを単独で行使して批判を招くことは長年避けてきた。最後に単独で拒否権を行使したのは20年前だ(編集注、当時、国連がマケドニアで平和維持活動を展開していたが、同国が台湾と国交を結んだため、中国がその活動継続に拒否権を発動した)。
習政権以降、中国は国連への拠出金を増やし様々な手段で米国中心の国連の在り方を変えようとしている(写真は今年の国連総会)=AP
しかし、中国の外交官らは国連の舞台裏では近年、自国の力を積極的に誇示するようになっており、これに欧米の外交官らは対抗している。国連が、世界秩序の在り方を巡って、このように戦いの場となるのは冷戦時代以来のことだ。
■中国への非難声明に別の声明で対抗する中国
中国政府が膨大な数に上るイスラム教徒の少数民族ウイグル族を強制収容所に拘束していることについて、10月29日に国連で起きた中国政府と欧米諸国の対立は、この戦いがいかに激しさを増しているかを浮き彫りにした。
ウイグル族の収容を巡っては、英国が珍しく中国の人権侵害を非難する主導的役割を果たした。ピアース英国連大使が発表した声明には、英国のほか米国など22カ国が署名し、中国西部の新疆ウイグル自治区にあるこれら収容所に国連機関が制約なく現地に入ることを中国に認めるよう求めた。この声明に対し、中国は西側諸国と激しい外交的小競り合いを繰り広げた。
中国の外交官らは、中国政府の新疆での活動はテロとの戦いであり、宗教的な過激思想を撲滅し、世界を少しでも平和にするための取り組みだと評価する声明に署名するよう、イスラム教徒が多数を占める中東諸国の独裁国家など、何十もの国を説得した(編集注、この声明はベラルーシが対中声明と同じ10月29日に出し、中国政府は54カ国が支持したと主張しているが、署名した国は6カ国しか明らかになっていない)。
中国政府は、脅しや報復措置という手段も活用した。中国の外交官はオーストリアのカウンターパートに、英国の声明に署名すれば、北京の大使館移転のために希望していた土地を入手できなくなると伝えたとされる。オーストリアはそれでも署名した。アルバニアも署名したが、中国政府は同国と北京で開催予定だったイベントを中止した。
「今回は、多くの国が(中国の)強い圧力にさらされた。だが、我々は自分たちが信じる価値と人権のために立ち上がらねばならない」と、アレン英国連次席大使は共同声明が発表された日にこうツイートした。
中国の国連での影響力拡大に向けた取り組みは、人権から経済開発関連まで多岐にわたる。狙いは主に2つあるようだ。
一つは中国共産党による支配に対する海外からの批判を封じ、党にとっての安全地帯を国連に作ることだ。中国は外国からの「干渉」に長年、いら立ちを募らせており、最近は海外からの干渉には強く反発するようになっている。
もう一つは国連の様々な文書に習近平(シー・ジンピン)国家主席の思想を反映する文言を入れることだ。「中国は、国連の政策に自国の政策を反映させようとしている」と安保理メンバー国のある外交官は指摘する。
トランプ米大統領が国際的な機関を毛嫌いし、米国が国連などへの関与を減らしている分、中国は自国が影響力を拡大する余地が広がっていると感じている。習氏が2012年に総書記に就任して以降、中国は国連への分担金の支出を大幅に増やしている。今や一般予算でも平和維持活動予算でも、その負担額は米国に次いで世界2位だ。
またローマに本部を置く国連食糧農業機関(FAO)など、中国は最近、国連機関トップの座も複数獲得している(今年6月のFAO総会で、中国人の候補が米国の支援する候補を破って事務局長に選出された際は、多くの人が驚いた)。来年には国連会計監査委員会の3人のメンバーの1人が中国人になる。
中国が獲得した幹部ポストの大半は、ほとんどの国が気にかけないような組織の目立たない役職だ。それでも、中国はそれらのポストを得ることで官僚的権力を少しずつ掌握し、利益誘導を図る力を手にしつつある。「どのポストも必ずどこかの誰かに対して影響力を持つ」と欧州のある国の外交官は話す。
中国にとって重要な問題が国連で投票にかけられることになると、中国の外交官はしばしばあからさまな取引を武器に使う。自国の考えに賛同させるべく、対象国のプロジェクトへの融資を申し出たり、逆に融資をやめると脅したりするのだ。このやり方で中国は影響力は確保できるが、決して好かれることはない、と他の外交官たちは話す。
■国連の文書に習主席の言葉を挿入させる
習政権の影響力を行使しようとする努力は明らかに成果を上げている。中国の外交官たちが国連の文書に採用させようとする文言の多くは、「ウィンウィンの協力」「人類運命共同体(中国には干渉するなというのが裏の意味)」といった同氏のキャッチフレーズだ。
中国は3年連続でアフガニスタンに関する国連決議の中に、習氏が「ウィンウィン」のグローバルなインフラ建設構想として推進する「一帯一路」への好意的な文言を挿入させることに成功している。さらにグテーレス国連事務総長といった国連の上級幹部に、演説で「一帯一路」をグローバルな経済発展の模範だと称賛させてもいる。
18年にはジュネーブに本部を置く国連人権理事会(米国は同年脱退)を説得し、中国が望む「互恵的協力推進」というアプローチに対する支持も表明させた。これは、すなわち中国を批判するなということだ。
中国の影響力拡大への取り組みは、文言の挿入にとどまらない。17年に国連の全機関および様々なプログラムで人権保護を推進するための職務の予算を削減させた。同年4月には、経済・社会問題担当の国連事務次長だった呉紅波氏は、国連の先住民に関するフォーラムにドイツの非営利組織「世界ウイグル会議」の代表として招待され、出席していた亡命ウイグル人活動家ドルクン・エイサ氏を退場させた(もっともその後、米独の外交官らが抗議し、同氏は出席を認められた)。しかし、呉氏は不偏不党が求められる役職に就いていたにもかかわらず、後に中国国営テレビに出演した際、「我々は祖国の利益をしっかりと守らなければならない」と発言し、自らの行動を自慢した。
■国連での中国の台頭を歓迎する国々も
こうした中国の強気な態度への反発は今後、強まるかもしれない。「(中国は)やりすぎで、いずれほかの国も抵抗し始めるだろう」と安保理メンバー国のある外交官は話す。
しかし、同じ見方をする国ばかりではない。独裁国が多いアフリカや中東の小国の多くは冷戦後、米国が国連を牛耳ってきたことへの不満が強い。中国が米国に反抗して何が悪いのか、とこの地域出身のある外交官は言う。中国は何かを望む時に他国に圧力をかけるが、米国も中国ほどあからさまではないが取引しようとすることがあると指摘する。
米中の超大国が、他国を味方につけようと競い合う時代の復活を歓迎する国もあるだろう。「(中国の強気な姿勢を抑え込もうとする動きには)偽善的な側面がある。台頭する中国が、多国間システムの中で勢力を伸ばしたいと考えていない、などと思うのはあり得ないことだ」。紛争の防止を目的とする非政府組織(NGO)、国際危機グループのリチャード・ゴーワン氏はこう指摘する。
中国が勢力拡大を考えていない、などとみている人は今やほぼ皆無だろう。