エコノミクストレンド

 

国、プラットフォーム支援を


柳川範之 東大教授

ポイント


○多様かつ新しいつながり作りに商機あり


○地方でも埋もれた情報活用で事業可能に


○規制はグレーゾーンをできるだけ減らせ

 

プラットフォーム・ビジネスが注目を集めている。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなど、GAFAといわれるグローバルなプラットフォーム企業の経済活動の広がりと、それに対する関心の高さも一つの原因だろう。

世界的にはその活動に対して懸念の声も上がっており、日本でも公正取引委員会が報告書を出し、独禁法による対処や新法の国会提出が計画されるなど、主にデータの取り扱いに関しての規制やルール作りが進んでいる。

健全な取引を実現させるうえで、ルール作りはとても重要だ。しかし、その一方でプラットフォーム型ビジネスがどう発展していくのか、どう伸ばしていくのかという視点も劣らず大事だろう。今後規制がある程度かかるにせよ、こういったビジネスが世界的に大きな比重を占めていくことは容易に想像できるし、特別な企業だけのものではなくなっていくからだ。

 

 

また中国のように国家戦略としてプラットフォーム型ビジネスを推進する国が出現していることを考えると、日本企業としても経営戦略を考える必要があるし、政府としてもそれをどう積極的に後押しするかが重要になってくる。適切なブレーキは必要だが、同時に適切なアクセル的な政策を持たないと世界的な競争に太刀打ちできなくなる。

 

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プラットフォームにかかわる技術変化を簡単にまとめれば、デジタル化とデジタルデータの収集・解析技術の大幅な向上ということができるだろう。デジタル化は、業種や業界の垣根を大きく塗り替えていくところに特徴がある。例えば、書籍・音楽・映画は別産業だったが、デジタル化されたことによって、少なくとも流通はほぼ共通化が可能になった。その結果、既存の分野を横断するビジネスがあちこちで現れることになった。

また、今までにない新しい結びつきがそれによって可能になった。プラットフォーム型ビジネスの大きな特徴は、デジタル化の流れを利用して既存の分野を横断的に展開するとともに、今までなかった様々なマッチングを実現させるところにある。例えばグーグルは、今までにないビジネスや技術の組み合わせを、同社と連携する企業を多面的に持つことによって実現している。米ウーバーテクノロジーズやメルカリのようなビジネスは、有効活用されてこなかった資産を潜在的なユーザーと結びつけた。

プラットフォームというとデータの収集に焦点が当たりがちだが、そこだけがポイントではない。多様なつながりをどう作っていくかも大事だ。この点は日本企業はやや苦手とするが、強みの部分を業界の垣根を越えて他分野にも横展開し、それを他の組織やサービスなどと結びつける基盤とする。こういうビジネスモデルの展開は、多くの企業にとってビジネスチャンスをもたらすはずだ。その際、業界の縦割り的な規制や制度を徹底的に見直し、横断的な活動を積極的に後押しするような制度整備が政策的には重要になる。

もう一つの大きな変化は、当然のことながらデータの収集・解析能力の革新である。データの収集という観点からいえば、あらゆるものがインターネットにつながる「IoT」によって、今までは得られなかった非デジタルのデータが解析可能なデジタルデータとして得られるようになる点はとても重要だ。これからはデジタルとリアルの融合がポイントだが、IoTが進展すればその面が大きく進むことになるだろう。

データの解析については、より多くのデータを集めることができればより精度の高い解析ができるという点で、規模の経済性が強く働くこととなった。その結果、先行者で大量のデータを集めたほうが強いことになる。また、より優れた計算能力・解析能力を持つコンピューターを保有しているほうが競争力をもつ。そのため、いち早く大きな投資を行った企業が得をする構図となった。つまり、全体として先行者利益が大きい構造にシフトしていっているのだ。

伝統的には、日本企業は先行者利益を享受するというよりは、2番手として新しい技術を精緻化するところで強みを発揮してきた。しかし、そのセカンドムーバーの利益がかなり少なくなっている。注目すべきなのは、データ解析という横ぐしのところでそれが起こっているために、あらゆる分野で、かなり強い先行者利益が発生する可能性があるということだ。

もちろん、データの適切な管理や利用者保護の点は重要だし、データ独占の問題も課題だ。しかし、グローバル競争の中で、どうすれば日本企業が先行者利益を得られるほどデータ収集・解析面で先行できるか、というのも並行して検討すべき点である。

ただし、ビッグデータを集めさえすれば強みが発揮され、先行者利益が得られるわけではない点は注意が必要だ。データの解析には明確な目的が必要であり、何のためにデータを集めて分析するのかがはっきりしていないと、ほとんど成果を得ることはできない。

また、どれだけ先行者利益があるといっても、すべてが先行者に解析されてしまうわけではないという点も認識しておくべきだろう。例えば自社製品を値下げした際、どの程度売り上げが増えるのかという情報は、実際に値下げしてみないと正確には得られない。個々の企業を取り巻くデータは、実際に企業が戦略的に動いてデータを集めることによって得られることが少なくない。

 

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むやみにビッグデータを追い求めなくても、自社にとって必要かつ有意義なデータをきちんと集めて解析し、望ましい顧客サービスや戦略に反映させることは可能だ。そのようなプラットフォーム型ビジネスならば、地方でもどこでも至るところにビジネスチャンスをもたらすはずだ。まだまだ埋もれていて十分に活用されていない情報がそこには眠っている。

グローバルなプラットフォーム企業だけがプラットフォーム企業だという認識を持ちがちだが、実は、もっとローカルな範囲でもプラットフォームの形成は可能なのである。

このように、プラットフォーム型ビジネスおよびデータ活用型ビジネスはいくつかの方向性を考えることができ、それらを適切に発展させていくことが多くの日本企業にとって重要な課題なのである。

そのためには、政府による規制やルール作りの面でいえば、どこまでが問題となる活動なのかを明確にして、グレーゾーンをできるだけ減らし、ビジネスに萎縮効果を与えないようにすることが肝要だ。行政サービスのデジタル化を徹底して図り、企業活動のデジタル化の阻害をしないことも、求められる喫緊の対応だろう。

 

 

 

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