科学記者の目
温暖化で台風はさらに猛烈になるか
編集委員・気象予報士 安藤淳
千曲川の堤防が決壊し、大規模浸水した長野市穂保(13日) |
台風19号のような強力な台風が日本を襲うのは、温暖化が進んでいるからとされる。しかし、過去の記録をみると19号よりも強い勢力で日本に接近、上陸した台風はたくさんある。今後、それをも上回るすさまじい台風がやってくるのだろうか。
台風19号は日本の南海上で最盛期を迎えたとき、中心気圧が915ヘクトパスカル(hPa)まで下がった。「猛烈」な台風ではあるが、1950年代以降、記録の残っている範囲でもっとも気圧が下がったのは79年の台風20号の870ヘクトパスカル。今回の915ヘクトパスカルは低い方から100位にも入らない。つまり、それほど珍しい台風ではなかった。
猛烈な台風がすべて日本にやってくるわけではないが、日本に上陸したときの気圧で比べると、台風19号が955ヘクトパスカルだったのに対し、61年9月16日に上陸した18号(第2室戸台風)は925ヘクトパスカル、59年9月26日の15号(伊勢湾台風)は929ヘクトパスカルと、ずっと低かった。気象庁の統計で気圧が低い方から並べると、上位10個中、7個が50〜60年代に集中している。
横浜国立大学の筆保弘徳准教授のまとめでは1900年以降、上陸時の気圧が970ヘクトパスカル未満の比較的強い台風の割合が高くなった時期は3つある。1900年代前半、30年代後半、そして80年代後半以降だ。少なくとも数十年に1度くらいの割合で、強い台風の上陸が目立つ時期があるといえる。
台風は海面水温が高いところで発達しやすい。過去100年以上にわたり、地球の平均気温は上昇傾向にあり、海面水温もほぼ連動して上がっている。しかし、台風の勢力は単純に強まり続けているわけではなく、強まりやすい時期、そうでない時期が交互にあるようにもみえる。この背景に何があるのか、はっきりわかっていない。海水の流れや温度は様々な周期や規模で自然変動しており、それらを反映しているとも考えられる。
台風が勢力を保ったまま上陸する確率は80年代後半以降、かなり長期にわたって上昇傾向が続いている。では、このままさらに増えるのだろうか。過去の変化にならえば、いったん減る可能性もある。しかし、重要なのは土台となる平均的な海面水温が着実に上昇しているということだ。つまり、「ゲタ」をはいたような状態になっている。
自然変動で海面水温が一時的に上がる場合、このゲタの分だけ、昔に比べて水温は余計に高くなる。逆に、海面水温の下降期でも、以前ほど水温は下がらない。水温のみで台風の勢力が決まるわけではないが、全体としてみれば台風の強化に適した状態に一層なりやすいということは、多くの専門家が指摘している。
台風19号の東側には「大気の川」の呼ばれる水蒸気の流れがみられた(色の濃さは水蒸気量、矢印は流れの向きと強さ。11日午後9時。坪木和久・名古屋大教授提供) |
これまでいくつもの温暖化予測計算で、21世紀末には台風19号をしのぐ伊勢湾台風級の台風が、勢力を落とさずに日本に近づく可能性が高まるという結果が出ている。名古屋大学の坪木和久教授の計算では、最盛期の中心気圧が約860ヘクトパスカルと過去にないほどのものが現れ、最大風速(1分平均)が65メートル以上の「スーパー台風」の強さを保って日本を襲うケースも出てくる。
怖いのは台風本体だけではない。台風19号の場合、東側に「大気の川」と呼ばれる水蒸気の大きな流れが出現、台風の北上とともに巻き込まれるようにして東北地方の山岳部などにぶつかった。これが多数の河川の氾濫につながる大雨を降らせた。大気の川は18年の「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨)や、鬼怒川の氾濫を招いた15年の「平成27年関東・東北豪雨」でも解析された。海面水温の「底上げ」は、似たような現象の多発につながる可能性がある。坪木教授は「科学者の予想以上の速さで温暖化の影響が出てくるかもしれない」と警鐘を鳴らす。