悩める人々 AIが救う? 宗教現場、活用と共存探る


ロボットが般若心経 スピーカーから説法・・・



宗教の現場で、人工知能(AI)を活用する試みが広がっている。ロボットが般若心経を説き、AIスピーカーで法話を流す。AIが人知を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が2045年にも来るといわれる。人々の悩みを受け止めてきた宗教は、AIと共存できるのか。模索する現場を訪ねた。

 

豊臣秀吉の妻ねねが建立した京都・東山の高台寺。この春、世界初のアンドロイド観音「マインダー」が登場した。シリコンで作った顔と両手以外は、アルミの機械がむき出しだ。

制作したのはロボット研究で名高い大阪大学・石黒浩教授の研究室。教えを請う人間の姿をプロジェクションマッピングで映し出し、人工音声が対話形式で般若心経を説く。

「私は時空を超えて何にだって変身できる。きょうはアンドロイドの姿であなたたちと向き合うことにした」。最前列で聞いていた大学院生(24)は「最初は少し違和感があったが、僕らの世代は人工的な声も聞き慣れているので、言葉がわかりやすく入ってきた」と印象を話した。

開発を手掛けた高台寺の後藤典生前執事長は「機械がむき出しであることに意味がある」と話す。「音声はタレントに頼むことも考えたが、機械に変身して語りかける新しい仏像がいいと思った」。さらに「あらゆるものを利用して人の苦しみを救うのが仏教。AIが悩みを克服する力を人に与えるのなら、寺はなくなってもいい」とまで言う。

自宅にいながらAIスピーカーで僧侶の説法が聞けるアイデアも現れた。

葬儀関連事業のよりそう(東京・品川)はLINEのAIスピーカー「クローバ」に話しかけるだけで僧侶の法話が3分間聞けるサービスを昨年から始めた。再生回数は1300回を超え、利用者から「ギャップに感銘した」などの反応が寄せられている。

僧侶の依頼もできる。「お坊さんを呼んで」と話しかけ、葬儀など目的を選んで電話番号を伝えるだけ。小野敬明・お坊さん手配事業部長は「AIをお坊さんの代替にするのではなく、AIを活用することで寺と縁がない方を支えていきたい」と説明する。

AIの進化は速い。人を評価する機能が進めば、AIが自ら人の悩みを解決する時代が来るのだろうか。

 

 

そんな未来を体感する試みが登場した。8月9日に東京・渋谷で「KaMiNG SINGULARITY」(カミング・シンギュラリティー)と題したイベントが開かれ、学生や宗教関係者が訪れた。

設定は2045年。会場には「最適解を導き出すAIは"KaMi"と呼ばれ、あらゆる判断をつかさどるようになった」という想定の「サイバー神社」が"建立"された。

 

参拝者は2礼2拍手した後、祭壇のキーボードで願い事を入力する。システムを開発したneten(甲府市)の七沢智樹さんは「言葉を特殊な電気信号に変換して空間に発信することで、その場にいる人々の脳に働きかける。個人の願いが他の人の深層心理に届いて共有されると考えている」と解説する。

6月には「aiは愛を持てるか」を議論するプレイベントも行われた。主催したイベント会社、Ozone(横浜市)の雨宮優代表は「AIが神になると想定しているわけではない。aiと小文字にすることで『エーアイ』ではなく『I』とも『愛』とも読める。想像する機会自体をつくることが目的」と話す。

高台寺やサイバー神社に共通するのは、人と機会の境界にこだわらないことだ。それは多様性を尊重する宗教本来の姿にかなっているようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 

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