フェイスブックCEO単独インタビュー

 

「問題起きて対処、もう通じず」ザッカーバーグ氏に聞く


 

米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)がシリコンバレーの本社で日本経済新聞社との単独インタビューに応じた。企業としての信頼回復が課題となるなか、まず製品をつくり問題があればその時点でやめるのではなく問題の先手を打つように経営のかじ取りを修正したと訴えた。仮想現実(VR)で人々が交流する新サービスを2020年に立ち上げるほか、世界的な論争を呼んだデジタル通貨「リブラ」は実現をめざす意向を改めて示した。

 

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・ザッカーバーグ氏かく語りき インタビューから

 

過去に例のない速さで成長した会社は、いまそのひずみに揺れる。データ経済を象徴するテクノロジー起業家は、自社の現状をどうとらえ、経営の針路をどうとるのか。

 


「ここ数年、フェイスブックと他の大手インターネット企業が多くの社会問題の渦中にあった。必要とされる対応が遅れていた部分がある」。ザッカーバーグ氏は率直に認めた。

「かつてはまず製品をつくって提供し、問題があればその時点でやめる。そういうやり方をしてきた。いまは先手を打たなければだめだ」

例えばネット上の不適切なコンテンツに対し、通報を待って対処するのではなく危険な情報を発見する人工知能(AI)をつくり迅速に取り除くことをめざす。「会社にとって大きな変化だ」。民主主義を脅かすフェイクニュースに個人情報の流出と続けざまに直面した問題から教訓を得た。

「大きな問題に取り組みながらも、最先端テクノロジーの革新を続けたい」。もともと「人と人をつなぐ」を会社の使命に掲げる。ゴーグル型の機器をかぶり立体感のある仮想空間に入り込むVRを使い、コミュニケーションの変革に再び挑むという。

ザッカーバーグ氏はVRや拡張現実(AR)は「誰かと一緒にいるという感覚を持つのに役立つ」と説明した。友人とのコミュニケーションのほか、もっと広範な利用が考えられる。例えば働き方だ。「優れた人材は各地にいるが、仕事の機会は都市に偏っている」。こうした問題を解消し、経済的にプラスになると意義を唱える。

VRでは手の動きなどに関連して生まれる大量のデータを機器本体に蓄えて厳重に管理し、利用者が安心できるようにするとした。個人データの保護では「これまでと異なるプライバシーモデル」が必要になるという。

今夏公表したリブラ構想については金融システムへの影響を懸念する声などが当局から相次ぐ。同氏は「多くの人が疑問と懸念を抱いている。前進する前に対応しなければならない」と、強引に事を運ばず当局などとの議論を重視する姿勢を見せた。予定した20年の開始は明言しなかった。

「プライバシーなど一連の問題を経験し、われわれは変わった。社会にとってセンシティブなことをするなら問題点をつぶす期間を持ちたい」と同氏。「5年前とはまったく違うアプローチだがそれが正しい」。具体的な行動で示していくしかない。

 

 

 

 

 

 

インタビューの主な発言

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が日本経済新聞記者のインタビューに応じた。主な発言は以下の通り。

 

なぜいま仮想現実(VR)なのか

フェイスブックの使命は人と人をつなぎ、距離を近づけることだ。テクノロジーやコンピューティングの体験は人を中心に考えたい。人類はほかの人とコミュニケーションしながら進化してきた。脳には感情を読み取り、他者を理解する機能が備わっている。われわれは、そうやって世界を認識している。人を中心にしたテクノロジー体験ができる製品をつくりたかった。これまで(フェイスブックやインスタグラムなど)広く使われる4つのアプリでそれを実現してきたが、次のコンピューティングプラットフォームを形づくりたい。

VRと拡張現実(AR)は、私たちが社会的な存在であるというリアルな感覚を伝えられる初めてのテクノロジーだ。誰かと一緒にいるという感覚を持つのに役立つ。うまくいけば電話やコンピューターにように、いずれユビキタスなものになる。そのためには(特別な装置がなくても仮想空間で自分の手を動かせる)ハンドトラッキングや(技術開発の)エコシステムが必要だ。さらに人びとが新たなものを構築したり、互いに触れあったりする世界がなければならない。「ホライズン」というソーシャルVRサービスでそれを提供したい。

電話でメッセージを送ったりビデオチャットしたりしても、誰かとともにあるとは感じられない。VRやARはまったく違う。離れた場所にいるインタビューも、ホログラムを使えば、まるで対面しているように感じることができる。これまでにない感覚、深い体験だ。だからこそこの取り組みに大いに関心を抱いている。


VR時代の安心

とても興味深いのは仕事のあり方への影響だ。現代社会の問題の一つは、有能な人材はあらゆるところにいるのに、能力を生かす機会が都市に偏在していることだ。この力学の結果、必ずしもそうしたくない人も仕事を求めて都市に移り住み、物価高騰を招いている。将来はVRやARを使うことで、好きな場所にいながら仕事の機会を得られる。時間はかかるが、テクノロジーはどんどん良くなる。社会に機会の平等をもたらし、経済全体にとって重要だ。

人々が交流するホライズンは、嫌がらせなどを受けず誰もが参加できる安全な設計にする。頭に付ける機器の通信機能などが問題を起こさないか研究してきたし、これを続ける。信頼できる安全な環境と理解してもらえるだろう。ハンドトラッキングなどに関する大量のデータはVR機器のなかに保存される。これまでとは異なるプライバシーモデルだ。フェイスブックやインスタグラムではデータがクラウドに行き他者と共有される。VR機器では利用者の期待は異なる。信頼されるよう厳重にデータを管理しなければならない。

 

個人情報の流出やフェイクニュース問題

過去数年にわたり、フェイスブックと他の大手インターネット企業が多くの社会問題の渦中にあった。適切にコンテンツを届けること、選挙の品位を保つこと、不当な介入を避けること、プライバシーを守ることが重要だ。必要なのに対応が遅れていた部分がある。いま大きく焦点をあて対策をとっている領域だ。進展があると感じているが、人々はわれわれが問題を解決できるか引き続き注視していると思う。

かつてわれわれは、まずは製品をつくって提供し、どう使われるか見てみようという姿勢だった。良い使われ方をしていれば機能を増やし、悪い使われ方ならそれを止めるというやり方だ。しかし、いまは製品から生じる問題を前もって理解することに努力している。先手を打たなければだめだ。例えば、不適切なコンテンツが流れ、誰かが通報するのを待ってはいられない。危険な情報を見つける人工知能(AI)をつくって、迅速に取り除く必要がある。会社にとって大きな変化であり、前もって問題を発見することにエネルギーを注いでいる。

 

デジタル通貨リブラ

リブラの背景には、世界の誰もが金融システムにアクセス可能にするという考えがある。日米のような国では通貨が強く安定し、価値が保たれ送金も容易だ。一方で、そうではない国の人が大勢いる。通貨や法制度が安定せず、インフレで価値が下がったり、政府に取り上げられたりする。リブラが助けになる人が大勢いると思う。

決済や金融のシステムは強く規制された領域であり、インターネットサービスとは違う。リブラのアイデアを出せば詳しい調査を受け、承認を得るのに長い規制プロセスをたどらなければならないとわかっていた。そのため早い段階でホワイトペーパーを公表し議論を始めた。多くの人が多くの疑問と懸念を抱いている。前に進む前に、これらすべてに対応しなければならない。何年もかかるというのではなく早い時期に実現したいが、いまは疑問に答えることに集中したい。

プライバシーなど一連の問題を経験し、われわれは変わった。社会にとってセンシティブなことをするときには、人々の意見を聞きフィードバックを受け問題点をつぶすための期間を持ちたい。5年前とはまったく違うアプローチだが、それが正しいと思っている。

 

 

 

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