(池上彰の新聞ななめ読み)
参院選、投票翌日の朝刊 改憲勢力、各紙の評価は
参院選の結果を報じる7月22日付の朝日、毎日、日経、読売の朝刊紙面
最初から最後まで盛り上がらない参議院選挙になったのは、誰の責任なのか。そんなことを考えながら、東京の自宅に届いた投票翌日の朝刊各紙の1面をチェックしました。
まずは朝日。「自公改選過半数」の横見出しで、縦見出しは「改憲勢力2/3は届かず」です。
こういう見出しが妥当だろうなあと思いながら他紙をログイン前の続き見ると、毎日も横見出しは「自公勝利改選過半数」とあり、縦見出しは「改憲3分の2届かず」。日経新聞も横見出しは「与党が改選過半数」、縦見出しは「改憲勢力は2/3割れ」です。
みんな同じだなと読売1面を見て、驚きました。横見出しは「与党勝利改選過半数」は、ほぼ同趣旨ですが、縦見出しは「1人区自民22勝10敗」とあります。「改憲勢力2/3割れ」は、大きな見出しになっていません。1面下半分の所に、ようやくこの見出しがあります。
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安倍晋三首相は、選挙中、改憲論議を進めるべきだと主張してきました。それを実現するためには、改選後も3分の2を維持することが必須です。となれば、選挙結果を評価するときに改憲勢力がどうなったのか、縦見出しにするのが妥当な判断でしょう。本文を読むと、ちゃんと3分の2割れになったことが書いてあるのですから、見出しをつける担当者の判断でしょう。疑問が残ります。
一方、産経新聞は横見出しが「改憲勢力3分の2困難」とあり、縦見出しは「自公、改選過半数」です。東京新聞も横見出しは「改憲勢力3分の2割る」で、縦見出しが「自公改選過半数は確保」です。ふだん論調が対立する産経と東京が、見出しでは同じ判断をしています。
ここには、改憲を進めるべきだと主張する産経と、改憲に批判的な東京が、どちらも3分の2に達するかどうか注目していたからでしょう。重点の置きどころは異なっても、産経と東京の見出しの判断は、読売よりは納得できます。
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こういう結果を、当日のコラムはどう書いたか。朝日の「天声人語」は、「大相撲名古屋場所は、モンゴル出身の横綱同士の対決を鶴竜が制して幕を閉じた」と書き出します。選挙を相撲に例えたなとすぐにわかります。自民党を横綱に例え、安倍首相の演説は横綱相撲ではなかったという趣旨です。わかりやすい例えですが、発想がストレートです。
毎日の「余録」は? 「その昔、ナイル川上流域に住むシルック族の王は病気や老いの兆しを見せてはならなかった。見せればすぐに殺されたのだ」。これには驚かされます。コラムの導入として工夫がありますが、実はこれは英人類学者フレーザーの「金枝篇(きんしへん)」に出ている話となると、コラム筆者の教養ばかりを見せつけられる印象です。
読売の「編集手帳」はどうか。「農家の方は見かけるものかもしれない。〈とうが立つ〉。「とう」は【薹】と書く。難しい字だが、野菜などを適時に収穫しないと、伸びてくる花茎のことである」という書き出しは、これまた工夫の跡が見えますが、要は選挙での野党の戦いぶりを批判的に評価し、立憲民主党について、「国民から党が立ったと見られるか、野党の地位のまま薹が立ったと見られるか」と締めます。まさかの駄洒落(だじゃれ)。「編集手帳」といえば、以前は希代の名文家・竹内政明さんが担当していました。このコラムを見たらどう思うのでしょうか。
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では、気を取り直して日経の「春秋」。「さすが、当代一流の先生方、よくぞこれだけ的確かつコンパクトにまとめるものだなぁ、と感心する。高校生向けの日本史の教科書にある平成の首相や内閣に関する記述だ」と書き出し、コラムの筆者は、将来安倍首相がどう総括されるか私案を提示しています。
「再び首相の座につくとデフレ脱却をめざして、一連の経済対策を打ち出し、民主党政権で悪化した米国や中国との関係立て直しに取り組んだ」と書かれるか、「少子高齢化を見すえた大胆な改革は先送りされた」と評価されるか。未来に現在がどう評価されるか。大事な視点です。