[社説]

 

大きな変化を望まなかった参院選


 有権者は大きな変化を望まなかった、ということだろう。選挙戦で、与党の自民、公明両党は「政治の安定」を掲げ、野党の立憲民主党などは「まっとうな政治」や「家計第一」を訴えたが、双方とも追い風を生み出せなかった。低調な論戦の結果、地力に勝る与党が改選議席の半数を超え、3年前とほぼ同水準の勝利を収めた。

 参院選が示す民意をどう読み取るかはもともと難しい。衆院選のような政権選択の場ではない。時期を選べないので、そのときに国民の関心を集める明確な争点があるとも限らない。

 

■安全運転だった与党

 特に今回は安倍晋三首相が衆院を解散し、衆参同日選に持ち込むのではないかとの臆測が飛び交ったため、解散見送りの時点で国民は拍子抜けしたのではないか。投票率は史上2度目の50%割れだった。参院議員には不本意かもしれないが、「中止になった一軍戦の穴埋めに開かれた二軍戦みたい」との声も聞いた。

 そうなった理由のひとつが、自民党がこの選挙の目標を「負けない」ことに置いたことがある。改選対象だったのは、2013年に安倍ブームのもとで得た過去最多の議席。統一地方選と重なる亥(い)年の参院選の戦績は振るわないとの法則もあり、ある程度の議席減は織り込んでいた。

 それが大敗にまで至らないように、今年の通常国会には与野党対決型の法案は提出せず、安全運転に努めた。政権交代した12年の衆院選以降、選挙が近づくたびに打ち出してきた「女性活躍」「一億総活躍」「人づくり革命」などのキャッチフレーズも今回は全くなかった。

 要するに、野党を言い負かすのではなく、言い負かされかねない材料は提供しないという戦い方だったわけだ。

 政治は権力闘争なので、勝つための戦略は重要ではある。とはいえ、政権復帰から6年半たっても安倍首相の演説の最大の見せ場が「悪夢のような民主党政権時代に戻っていいのか」である現状は残念である。

 いまの日本に立ち止まっている余裕はないと主張するからには、今回得た「政治の安定」を基盤にして、年金・医療・介護などの社会保障制度への信頼の回復や、次世代へ借金をつけ回さないための財政再建などに真摯に取り組んでほしい。

 有権者が「選択肢のない政治」に沈黙しているからといって、国のかじ取りの担い手まで様子見をしていてよいはずがない。

 今回の選挙で、自民党が公約のトップに憲法改正を据えたこともあり、いわゆる改憲勢力が参院の3分の2を維持できるかどうかも注目されたが、届かなかった。

 そのことの意味を軽んじるわけではないが、改憲勢力が衆参両院で3分の2を占めた過去3年間、憲法論議はそれ以前よりもむしろ停滞した。重要なのは、数ではなく、与野党がきちんと話し合うための土俵づくりだ。衆参の憲法審査会を定期的に開き、互いの言い分をぶつけ合うべきだ。

 憲法が改正されるかどうかは最終的には国民投票で決まる。与党も国会発議を力押しして、有権者の理解を得られるかどうかは冷静に考えてもらいたい。

 

■野党はあまりに無策

 参院選が盛り上がらなかった責任が、与党以上に野党にあることは間違いない。目指す方向の違いから選挙直前に民進党が分裂した2年前の衆院選での敗北はある程度しかたないとしても、その後も再結集するでもなく、新たな政策の旗を打ち立てるでもなく、あまりに無策だった。

 衆参同日選が取り沙汰された通常国会の終盤に内閣不信任決議案を出すかどうかをためらった印象を与えたのが、その象徴である。要するに、「自分の議席ファースト」と思われたわけだ。

 野党陣営でいちばん話題を集めたのは、政治団体のれいわ新選組だった。実現性に乏しい政策が支持されたとは思えない。代表が議席を失うことをおそれない姿勢が好感されたのだろう。

 向こう受けばかり意識したポピュリズム志向が日本でも広がるのは困る。ただ、その人気を生んだ既成政治への不信感の高まりは無視すべきではない。

 選挙後の政治は、米トランプ政権の求める有志連合への参加の是非などの難題に向き合わねばならない。そのためには、信頼される政治を取り戻すことが最重要だ。議席はさほど動かなかった参院選だったが、与野党に突きつけた課題は決して小さくない。

 

 

 

 

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