(社説)

 

自公勝利という審判 「安定」の内実が問われる



 12年に1度、統一地方選と参院選が重なる「亥年(いどし)選挙」。前回の亥年の参院選で与野党逆転を喫し、1年で政権の座を去った安倍首相にとっては雪辱を果たしたことになるのだろう。

 きのう投開票された参院選は、自民、公明の与党が改選議席の過半数を上回り、勝利した。日本維新の会を加えた改憲に前向きな勢力は、国会発議に必要な3分の2を維持することはできなかった。

 首相が訴えた「政治の安定」は、ひとまず有権者に支持された形だが、「1強」による長期政権のおごりと緩みは誰の目にも明らかになっている。

 首相は自ら緊張感をもち、野党に投票した有権者も意識して、丁寧な合意形成に努めなければ、国民の重い負託には応えられないと肝に銘じるべきだ。

 

 ■「緊張」求める民意も

 国会での論戦は極力避け、野党に得点を与えない。切れ目のない首脳外交を展開し、世論の注目を一方的に集める――。それが今回の参院選に臨む、政権与党の戦略ではなかったか。

 行政監視の主舞台となる予算委員会は、野党の要求も国会の規則も無視して、4月以降1度も開かなかった。老後の備えに2千万円が必要とした金融庁審議会の報告書が選挙戦に不利とみるや、受け取りを拒み、年金論議の基礎となる財政検証の公表も選挙後となった。

 新天皇即位後、初の国賓としてトランプ米大統領を招き、国技館での大相撲観戦などで蜜月をアピール。例年、G7サミットの後に開かれるG20サミットは、参院選の公示直前に大阪で開催した。

 首相は衆参合わせて計6回の国政選挙に連続して勝利した。しかし、今回の参院選の投票率は24年ぶりに50%を切り、過去2番目の低さとなる見通しだ。その支持の内実はどこまで強固といえるだろうか。

 朝日新聞の世論調査では、首相支持の理由で一番多いのは「他よりよさそう」で、政策や首相個人への評価を常に大きく上回っている。

 参院選期間中の調査で、今の日本政治にとってより重要なことを尋ねたところ、「野党がもっと力を持つ」を挙げた人は43%で、「与党が安定した力を持つ」の36%を上回った。

 政治に緊張が必要だと考えている人は決して少数派ではない。獲得議席の数だけを絶対視するのではなく、複雑な民意をくみ取る努力が求められる。

 

 ■改憲支持と言えるか

 首相は今回の選挙で、憲法論議の是非を争点に据えた。「憲法について議論する政党」が選ばれたとして、改憲論議を加速する可能性がある。

 改憲勢力は3分の2に届かなかったが、首相は昨晩のテレビ局のインタビューで、野党の国民民主党の名前を挙げ、議論に前向きな議員に協力を呼びかけていく考えを示した。

 しかし、有権者が一票に託す思いはさまざまであり、今回の選挙結果をもって改憲にゴーサインが出たと受け止めるのは乱暴に過ぎる。

 思い起こすべきは、3年前の参院選だ。改憲勢力が衆参両院で3分の2に達したにもかかわらず、その後、改憲機運は高まらなかった。

 自民、公明、維新の3党をひとくくりに改憲勢力としても、それぞれの思惑や重視する項目は異なっている。いま改憲論議を進めることに、世論の強い後押しがあるわけでもない。

 選挙戦中の本紙の世論調査では、改憲勢力が3分の2以上を「占めない方がよい」が40%、「占めた方がよい」が37%と拮抗(きっこう)した。

 首相はきのう、憲法改正について、再来年秋までの自民党総裁の残り任期中に「なんとか実現したい」と語ったが、内政・外交とも難題が目白押しのなか、首相個人の思い入れで強引に議論を進めることは、社会に深刻な亀裂をもたらすだけだ。

 

 ■先送りのツケ一気に

 参院選が終われば、首相は「封印」してきた難題にいや応なく向き合わねばならない。

 ひとつは、参院選で争点となった老後の不安への対応である。新しい財政検証を踏まえ、年金を含む社会保障の給付と負担の全体像をどう描くのか。

 首相は選挙中、10月に10%となる消費税について「今後10年間ぐらいは上げる必要はない」と語ったが、本当にそれで必要な財源をまかなえるのか。説得力のある説明が求められる。

 トランプ大統領がツイッターに「(成果の)多くは7月の選挙後まで待つことになるだろう」と投稿した日米貿易交渉の行方も焦点だ。

 農産物の関税引き下げについて、日本側は環太平洋経済連携協定(TPP)の範囲内にとどめたい考えだが、米側の要求は見通せない。首相が誇る首脳間の親密な関係だけで乗り切れるものではない。

 中東のホルムズ海峡などで船舶の安全を守る米国主導の「有志連合」への参加問題も、日本の戦後外交の岐路ともなりうる重いテーマだ。

 民主主義における選挙は、勝者への白紙委任ではない。野党や国民との対話や議論抜きに、国の針路を正しく定めることはできないはずだ。

 

 

 

 

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