教育
「大学と経済界の対話を」
柴山昌彦文部科学相に聞く
2月に「高等教育・研究改革イニシアティブ」を公表した柴山昌彦文部科学相に高等教育の課題などを聞いた。
――大学改革が進まないという不満が経済界から強まる半面、大学側は一方的な改革攻勢が大学の基盤を揺るがしていると反発しています。
大学は教育研究の自由が保障されている。教育研究の自由が新たな知を生み出し、国力の源泉を支えている。同時に大学は教育研究の成果を広く社会に公表し、その発展に寄与することも求められる。社会の評価と支援を得るためにも教育研究やガバナンスの透明性を確保し、説明責任を果たすことが重要だ。
文部科学省は大学の自主的自律的な改革を促してきた。一定の成果があったが、国境を越えた大学間競争の激化、あるいは少子高齢化やソサイエティー5.0など急速な環境の変化を前にして、新たな人材育成やイノベーション創出の基盤となる大学改革が必要だ。
そこで2月、「高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)」を示した。意欲があれば誰もが高等教育機関へ進学できる機会の確保と、取り組みや成果に応じた大学への手厚い支援と厳格な評価を車の両輪とするガバナンス改革を一体的に進める。その一端が先ごろ成立した大学等の修学支援法と改正学校教育法だ。
経済界と大学の主張は、どちらももっともだ。これからは関係者が立場の違いを超えて協働し、具体的な行動を起こすことが大切だ。1月から大学と経団連が同じテーブルで、わが国の将来の人材育成に必要な大学教育や企業の採用方法などを議論する取り組みが始まった。先日、中間まとめが出たが大変有意義なことだ。これを契機に大学と経済界の対話と協働作業が一層進むことを期待している。文科省も大学の努力が社会に評価されるように取り組みの可視化や発信などの応援をしていく。
――現状は、大学は努力しているのに可視化が足りないのか、それとも成果が出ていないのか、どちらでしょうか。
両方だ。優れた論文数の指標となる世界のトップ10%論文数は日本も頑張っているが、中国などの台頭で相対的地位は低下している。人材の生産性でも企業同様に向上が問われる。日本は初等中等教育段階の人材は世界をリードしているが、大学卒業生や大学院生、研究者のパフォーマンスは見劣りする。一方で頑張っている大学もある。だからこそ、大学をきちんと評価できるように学校教育法を改正した。経営努力も可視化する。
――予算の削減を批判する大学側に対し、財務省は厳しい財政状況下でもしっかり手当てしているのに大学が努力不足だと主張しています。
私は改革原理主義者と呼ばれてきた。財務省が言うような成果に基づく配分、例えば運営費交付金の再配分等の方向性には理解を示しつつ、大学関係者の訴え、例えば若手研究者の将来に対する不安や劣悪な研究環境等の実態を見聞きして、成果主義は必要だが、前提となる研究者が安んじて活動できる基盤の整備が非常に重要だと考えている。基盤確保の重要性を財務省に訴えていく。
大学も工夫が必要だ。国立大学はいつまでも国の一部門という意識では困る。産学連携などの具体的取り組みを自律的に進めてほしい。ただ、日本は米国などと異なり経済界から大学への投資や支援の仕組みが十分に育っていない。他国と事情も異なる中で国の補助金や交付金の削減だけが先行して、大学の体力や研究者のパフォーマンスに大きな影響を与えてしまったのは事実だと思う。
――2020年度からの大学入試改革が迫っています。大学入学共通テストでの民間英語検定試験の活用や記述式問題の導入について、入試に詳しい人ほど疑問や不安の声を述べています。
英語の民間試験や記述式問題の導入について、様々な懸念の声があることはよく承知している。
英語の民間試験では参加試験及び各試験の得点とその対照表(CEFR)の公表、高校のニーズ調査実施、それを踏まえた試験実施事業者に対する検定料低減や実施会場の確実な確保の要請等の対策を進めている。特に公平性や公正性の確保は国会でも取り上げられたこともあり、昨年12月に高校・大学の関係者と試験実施団体を構成員とする会議を設置し、率直な意見交換を行っている。20年度の円滑な実施に向けて、大学入試センターと緊密に連携している。
――大丈夫ですか。受験生は不安でしょう。
共通テストの2回の試行調査では数学の記述式の問題の得点率が非常に低かった。自己採点と採点結果が一致せず、特に国語の記述式では採点の質がそろうのかとの疑問も出た。問題点はしっかりと補正して準備を進めている。採点事業者間のばらつきがほとんどないレベルまで事前研修等ですり合わせを行う。スケジュール通りの実施に向け着々と準備中だ。
――大学も受験生も多様化する中で、受験者50万人規模の共通試験は必要なのでしょうか。
共通一次試験や大学入試センター試験は大学ごとの多様性、受験生の多様性を重視しつつ、それぞれのアドミッションポリシーに応じて有効に活用できる共通のものさしという意義づけがある。個々の大学が、多様な受験生の能力資質をきちんと判定できる仕組みは依然として必要だ。
ポイント
■司令塔の役割 問われる真価
大学はイノベーションを支える人材の育成や新たな知の創造という役割を果たしていないのではないか。経済界を中心に大学批判は激しさを増す。財政当局も厳しい財政状況下でも大学予算に一定の配慮をしているのに、大学は期待に応えていないと批判する。
四面楚歌(そか)の中で、文部科学省は本当に大学の味方なのか。こんな声を大学関係者から聞くことが増えた。
立場の異なる3者の主張にはいずれもそれなりに説得力がある。で、文科省はどうするのか。高等教育政策の司令塔としての真価が問われている。