<NOハラスメント>

 

「声あげても救われない」

 

被害者2割「仕事やめた」/心に深刻な打撃 支援脆弱

 

 

 職場でのハラスメントの対策強化に向け、国が動き出した。だが実際に問題が起きたとき、被害者を支える仕組みはまだ整っていない。被害者がメンタルの不調に悩むケースも多い。安心して声をあげ、働き続けるための支援が求められている。

 関西の企業で契約社員だった30代の女性は数年前、勤務先の男性役員からのセクハラに遭った。数カ月にわたってつきまとわれ、性的な言動を繰り返された。人事部に訴えたが対処してくれず、不眠や頭痛に悩まされ、病院で鬱と診断され休職に追い込まれた。

 療養中も、会社に事実を訴えるためセクハラの実態について文書を作成し、大きな負担になった。「ハラスメントに理解を持ち、支援してくれる専門家がいればと痛感した」という。  

 結局、自治体の労働局に調停を申し込み、謝罪と防止規定書の作成を約束してもらったが、望んでいた復職はうやむやにされた。まだ体調に波があり、別の会社でパートで働く。将来のキャリアはどうなるのか。不安がぬぐえない。「本当は元の会社で徐々に労働時間を増やしながら前の状態に戻りたかった」

 労働政策研究・研修機構が2015年にまとめた「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態」調査では、都道府県の労働局にパワハラを相談した人のうち35%がメンタルヘルスに不調を来した。内藤忍副主任研究員は「日本ではハラスメントに遭っても我慢する人が多い。それが長引くほどメンタルヘルスが悪化し、支援が必要になる」と指摘する。

 「被害者が会社で相談すること自体、とても勇気がいる。同じ会社で働き続けたい人ほど苦しむ」。NPO日本キャリア・コンサルタント協会理事で、職場のハラスメントに遭った人のキャリア再起を支援する佐藤美礼さんはこう話す。

 社内に相談窓口があっても、総務や人事の部署が兼務しているなど、担当者にハラスメントに関する知識や支援のスキルがないことも多い。公正に扱ってもらえるかも心配だ。

 会社を相手に裁判を起こして勝訴しても、賠償金額は100万円程度。「被害者にとっては声をあげるのは損だと思ってしまう」

 佐藤さん自身、10年以上勤めた会社でハラスメントに巻き込まれた。それでも仕事に愛着があったから、苦痛でもタクシーで出社する生活を続けた。適応障害から鬱を発症。体重は10キロ落ち、円形脱毛症に悩まされた。退職後、公務員を経て現在はキャリアの挫折に悩む人のためのセミナーなどを開く。「ハラスメントを申し立てた後も人生は続く。キャリアを立て直すための社会的支援はあまりにも脆弱」と訴える。

「なぜこんなに頑張らないといけないの」。セクハラ問題に取り組む女性の労働組合、パープル・ユニオンの佐藤かおり執行委員長は、ある被害者が漏らした一言が忘れられない。

 ハラスメントについて相談するとき、会社や心療内科、弁護士、労働局、労災申請などに自ら赴き、その都度、被害について説明を繰り返さないといけない。心身にダメージを受けた人には大きな負担になる。各所の専門家がハラスメント問題への理解・知識が十分とは限らない。「医療、心理カウンセラー、弁護士などのスタッフがいて、ワンストップで対応できる仕組みが必要」と話す。

 連合が今年5月に調査した実態調査では、ハラスメントを受けた人の約19%が「仕事をやめた・変えた」と回答。中でも20代は27%と他の年代に比べて最も高かった。

 まずは企業がハラスメントの予防に力を入れ、問題が起きたら適正に対処し、被害者が安心して働き続けられるよう目配りする。職場のハラスメント問題に包括的に取り組まないと、人材流出や社員の士気低下、企業価値の損失など経営に直結するダメージを招きかねない。行政などによる公的支援についても検討が必要だ。

 

 

 

 

もどる