アップル、「サブスク」に軸足 

 

各デバイスのOS刷新

 

 

 

 アップルのクックCEOが基調講演の冒頭で語り始めたのは次期OSやハードの戦略ではなく、サービス部門の強化策だった(3日、米カリフォルニア州)=AP 画像の拡大 アップルのクックCEOが基調講演の冒頭で語り始めたのは次期OSやハードの戦略ではなく、サービス部門の強化策だった(3日、米カリフォルニア州)=AP

 米アップルは3日、米カリフォルニア州で開発者向けの年次イベント「WWDC」を開いた。次の収益源と位置づけるサブスクリプション(継続課金)型サービスの普及に向け、スマートフォン「iPhone」やパソコン「Mac」など各ハードウエア製品の基本ソフト(OS)の刷新を発表した。売り上げが伸び悩むハードから、利幅の大きいサービスへと収益構造を転換する姿勢を一段と鮮明にした。

 

 「アップルは世界水準のハードとソフトを統合した製品に加え、他では得られない体験を届けるサービスを育てつつある」。ティム・クック最高経営責任者(CEO)が基調講演の冒頭で世界から集まった数千人のソフト開発者らに語り始めた内容は、次期OSやハードの戦略ではなく、サービス部門の強化策だった。

 アップルは3月に定額制の動画配信サービス「TV+(プラス)」やゲーム配信サービス「アーケード」を今秋に始めると発表し、世界で14億台を超える自社製品のストック上で稼ぐビジネスモデルの構築を急いでいる。基調講演では自ら制作中のSFドラマ「フォー・オール・マンカインド」の予告も流して変化を印象づけた。

 WWDCの初日に発表された各OSのバージョンアップも、サービス強化の戦略に沿った内容となった。2001年に始めたパソコン向けの音楽・動画コンテンツの管理アプリ「iTunes」については次期「macOS」には搭載せず、iPhoneと同様に「ミュージック」や「TV」など3つの専用アプリに分割してサブスクリプション型のサービスにも対応しやすくする。

 アップルはタブレット端末「iPad」とMac向けの共通のアプリを作成できる「プロジェクトカタリスト」と呼ぶ機能も発表した。ソフト開発者らにこうした機能の利用を働きかけることで、異なる端末でも同じアプリやサービスが利用できる環境を整えていく方針だ。

 サービスの使い勝手を第一にOSを見直す戦略は、周辺機器でも徹底している。テレビに接続して使う端末「アップルTV」向けの「tvOS」には今秋始めるゲーム配信サービスを大画面で楽しめる機能を持たせた。腕時計型端末「アップルウオッチ」の「watchOS」には、iPhoneを介さなくてもネットから直接アプリをダウンロードできる機能を加えた。

 中国の景気減速などの影響でハードの売り上げが伸び悩み19年1〜3月期決算が2四半期連続で減収減益となるなか、サービス部門への期待は高まっている。音楽配信などを含むサービス部門の売上高は前年同期比16%増の114億5000万ドルと売上高全体に占める比率は20%に迫り、粗利益ベースでは全体の3分の1を稼ぐようになっている。

 ただ、動画配信市場には最大手の米ネットフリックスだけでなく、会員制サービス「プライム」向けの特典として力を入れる米アマゾン・ドット・コムも立ちはだかる。定額制のゲーム配信市場でも米グーグルが「スタディア」を年内に始める計画を打ち出すなど、サブスクリプション型サービスでは米ネット大手同士の競合が目立つようになっている。

 アプリ配信の基盤を運営するアップルが自前のアプリやサービスを強化することを警戒し、競合企業の間ではアップルの決済仲介を避ける動きも広がる。音楽配信大手のスポティファイ(スウェーデン)のように、高い手数料で競争を阻害しているとしてアップルを調査するよう規制当局に申し立てる動きもある。

 3日の基調講演でクックCEOはソフト開発者らに対し「あなた方が描く夢を見るのが待ち切れない」と述べたが、今後も一部のソフト開発者らとの摩擦が広がることは避けられない。サービス重視にシフトするアップルは難しいかじ取りを迫られそうだ。

 

 

 

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