人が輝くAI時代へ


ビル・ゲイツ氏インタビュー

Bill Gates 米ハーバード大学を中退し、1975年に友人のポール・アレン氏とマイクロソフトを創業した。それまでハード(機器)に付属する「脇役」だったソフトを一大産業に育て、巨万の富を築いた。 2000年にメリンダ夫人とビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立。約1500人のスタッフを抱え、医療や貧困、教育などの問題に取り組む。 63歳


 米マイクロソフト創業者で、現在は財団で慈善事業に取り組むビル・ゲイツ氏が日本経済新聞の取材に応じた。人工知能(AI)をはじめとする技術の進化が加速するなか、「人間の雇用を創出するためロボットへの課税が進む」と予測した。日本が競争力を保つにはソフトやAIに適応した人材育成が重要と指摘した。


技術使いこなす知恵を

 ゲイツ氏が興したマイクロソフトはパソコン用基本ソフトで高いシェアを握り、長らくIT(情報技術)業界の盟主だった。圧倒的な強さがアップルやグーグルなどのライバルも刺激し、デジタル社会の土台づくりに果たした役割は大きい。

 経営の第一線から退き、財団の仕事に軸足を移して10年。技術の信奉者ぶりは健在だ。「かつて人類は自給自足の農作に頼り、悪天候になると栄養失調に陥り、平均寿命も短かった。技術によってそうした状況から抜け出した」。文化的な生活が可能となり長寿化も進んでいると、技術の力を前向きに評価した。

 しかし、足元で技術の発展べースは速く、市場の創出や利便性向上をもたらす半面、社会を揺るがすリスクも膨らんでいる。自動化システムが人の仕事を奪うといった脅威論も無視できない。

 ゲイツ氏は「発電が環境汚染、自動車が交通事故をもたらすように、技術は問題の解決手段になると同時に新たな問題も生み出す」と指摘。新技術が登場するたびに負の側面が懸念されるのはやむを得ず、うまく使いこなす知恵こそ大切との考えを示した。




ロボ課税が雇用を生む

 ロボットは製品やサービスの生産効率を高めるのに有効としたうえで、「労働時間が減つて得られる自由な時間をどう過ごすかが問われる」と述べ、価値を生む時間の使い方を見つけることが人々の課題になろとした。

 ただ、ロボットが職場から、一方的に人を追い出すとは考えていない。「やがて社会は雇用創出を求め、資本財(ロボット)に高い税を課すようになるだろう。ロボットの導入ではなく人間の採用を促すような税制に向かう」と見通した。

 使い方によっては個人の視野を狭め、社会の分断につながるソーシャルメディアに関しては「方向性を決めるのは若い世代であり、彼らの重要性が増す」と語つた。

 社会貢献活動の必要性も訴える。「5歳未満児の死亡数は1990年に1200万人以上にのぼったが、600万人以下になった」。医薬品の開発や供給体制の整備などの成果だ。1日1.9ドルを下回る金額で暮らす極度の貧困者も世界人口の36%から9%まで減つた。「中国、インドの経済成長は日米を上回る。世界はより平等になっている」と総括した。

 課題として挙げたのはアフリカ。「今世紀半ばには極度の貧困者の90%がアフリカに集中する」と述べ、これまで以上に教育などへの投資がいるとした。医薬品などイノベーションの恩恵を届けるには「劇的なコストダウンが必要だ」。

 ゲイツ氏の財団活動は国境を越えて広がるが、米国は自国の利益確保を前面に出すトランプ大統領が率いている。ゲイツ氏は現政権下の米国は「グローバル化や他国との関係構築にやや後ろ向きの環境にある」と指摘。貧困国の国情安定は米国にも利点があり、資金援助国としての役割を続けるべきだと話した。

 「気候変動や病気撲滅など世界が協力しなければ解決できないことがたくさんある」とも語つた。世界経済については「貿易を盛んにすることでずっと良くなると確信する」と訴えた。

 

人材育成が日本の課題

 GAFAと称されるIT企業群を抱える米国や、台頭する中国に比べ、イノベーションの担い手として日本の影は薄い。突破口はあるのか。

 「科学と工学がイノベーションの源。日本には関連する企業や技術者が多く、日本にとって役に立つ」。ただし結果を出すには「ソフトやAIに適応しなければならない」と分析した。「よく訓練された人材を企業に送り込む教育制度があれば、現在のトヨタ自動車のような国際競争力を日本企業は保てる」

 同氏は「日本はアジアについて専門知識を持つ。製薬会社が病気治療に貢献し、インフラ開発や水の衛生管理でも実績がある」と語り、ゲイツ財団と日本の連携強化に意欲をみせた。

 

 

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