秋元康さんに聞く 人生100年時代の備え



あきもと・やすし 1958年東京都生まれ。中央大学在学中から放送作家として活動を始める。作詞家として「川の流れのように」「なんてったってアイドル」など数々のヒット曲を生み出す。人気グループAKB48や乃木坂46をプロデュース。映画の企画、脚本、監督や新聞連載小説も手がける。2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事も務めている。


好奇心消えたら定年




根拠のない自信大事に



平均寿命が延びる「人生100年時代」には様々な生き方の選択肢が増える。地図にない道を旅する現代の若者にはどういう羅針盤が必要か。「働く」とは、「天職」とは何か。人気テレビ番組やアイドルグループなどのヒットを数多くプロデュースしてきた、放送作家で作詞家の秋元康氏に聞いた。



――超長寿社会になると若者は人生設計をきちんとしないといけなくなるのでしょうか。

 「18〜20歳の若者は、僕らが当時そうだったように、60歳過ぎのことなんて考えていないでしょう。いつの時代の若者も自分が老人になることも死ぬことも、全く考えていないと思いますよ」

 「僕らの世代も、その前の世代も若者は、見よう見まねで、前の世代を参考にしたり、反発したりしてきました。むしろバタバタする生き方の方がいいんじゃないでしょうか。考えて賢くなると、考えも行動も小さくまとまってしまうでしょう。若者は間違つて当たり前なのです」

 「植物的な、さらさらした執着心のない若者が増えていると思います。『社長になりたくない』という若者たちです。僕らの世代はゴールや人生のアガリを探す時代でした。父たちが猛烈サラリーマン世代で高度経済成長に向かっていたので、若者たちに欲とか、もっと上に行こうという意識がありました。でもそれは決して50年後や60年後を据えた行動ではありませんでした」



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――人生で「働く」ことの意義をどう考えていますか。

 「金銭的、経済的なこと以上に、自分が必要とされているか、されていないかということの確認事項だと思います。社会の一員としていられるのか、社会から肩たたきされるのか。必要とされる人材となるには、集団の色に染まらない方がいいのではないでしょうか」

 「100人いれば100色の価値を見いだされる。昔は赤い会社は赤い人材、例えば、理数系が欲しい会社は理数系だけだったが、今は理数系の会社だからこそ文系が欲しいと多様化しています。自分の色を持てるかどうかが大事で、それがアイデンティティーです」

 「人と比較しすぎるのです。『今は赤が求められていない』とか客観的なことを考えますが、赤は赤でしか生きられないから、赤として生きるしかないのです。今は青の時代だからといって赤なのに青になろうとするから難しさがあるし、長所を生かせない。人と比べてマジョリティー(多数派)の中にいた方が傷つかないですが、その分個性は埋没します。自分はこっちだと思うが、それを言うと奇異な目で見られる。そういうことを避けていると自分の色が見えなくなります」



――ヒットを生み出すために必要な要素はありますか。

 「AKB48のヒットも確信というより勝手な思い込みでした。僕の願望であり、プライドであり、信念でした。数限りなく失敗もしたし、ヒットしなかったコンテンツに対しても同じように思い込みがありました。根拠のない自信を持つていないと、根拠が覆されたときに自信も崩れてしまいます。何となく行けるとか、自分がそうなりたいと思うことが大事です」

 「自分をセルフプロデュースする必要もないと思います。プロデュースとは客観性です。僕は『だまされたと思つてやってみたら』とよく言います。当人は本能の声を聞くというか、自分の中にある欲望や思考、哲学を解放することが大事なのに、それを飼いならそうとしてどんどん面白さがなくなるのです」

 「ある程度の年齢になったら、嫌いなものは嫌いでいいですが、若者は食わず嫌いをなくすことも大事です。これは必要ないとか、少し触つただけで違うと思うのは避けた方がいい。あるときすし店でコハダを食べて、おいしくなかったとしても、他においしいお店があるかもしれない。最初に食べたコハダで自分は苦手だと思う意識を持つことがもったいない」



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――ご自身の経験から、「天職」についてはどうお考えてすか。

 「結果的に続けられているものということてはないでしょうか。私自身は積極的にチャレンジしたというより、『こういう仕事をやってもらえませんか』と依頼がきて、それを断ることはできるだけしなかったというだけです。むしろ好奇心の方が強く、この人はなぜ僕に頼んだのだろうと思うことが多かった。若いときのパワーの源は好奇心でしたね」

 「成功や人に評価されるというのは氷山の一角に過ぎません。僕にとっては成功も失敗も、好奇心が満たされている時は等価値です。面白いと感じたものが結果的に評価されたことはあります。成功した方が楽しいですが、終わった瞬間の満足度は同じです。例えば、作詞を担当した美空ひばりさんの『川の流れのように』はすごくいい詩ですねと言われますが、作つたときの満足度は売れなかった他の何千曲を書いたときと同じでした」

 「自分の定年は好奇心がなくなったときだと思います。映画でもドラマでも、企画を考える時にワクワクしますが、あるとき、その好奇心がなくなってしまう気がしています。その時こそ、自分が仕事を辞める時だと思います」

 

 

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