ポスト平成の未来学

死を考える さまよう故人データ



デジタル遺品生前管理へ

 

 

 

 2016年に交通事故で亡くなった友人のSNS(交流サイト)アカウント。久しぶりに名前を検索してみると、亡くなる1力月前に友人限定で投稿した写真は色あせず、当時のまま残っていた。

 故人が現世に置いていったスマートフォン(スマホ)やSNSアカウントは「デジタル遺品」と呼ばれる。デジタル化で思い出を整理したり、残したりすることは容易になった。だが暗証番号や生体認証など生前に個人を守っていた技術が、故人と遺族の間に壁となって立ちはだかる。


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 「データが消えてしまうのが怖くてあきらめた」。高橋秋代さん(仮名・24)は3年前、大学1年生の妹を心不全で突然亡くした。思い出を集め写真集を作ろうと写真を探したが、パソコンもスマホもパスワードがかかっていた。

 パソコンは誕生日などを組み合わせて試し、その日にパスワードを解除できた。スマホは通信会社に「本人碓認が必要」と断られた。スマホには妹の友人から「LINE」のメッセージが届いていたが開くことはできず、引き出しの中で眠ったままだ。

 スマホやSNSは本人がいなければパスワードが解除できず、遺族が中身の確認や操作をするすべはほとんど無い。データ復旧などを手がけるデジタルデータソリューション(DDS、東京・中央)にはデジタル遺品の相談が過去1年で約400件寄せられた。多くは亡くなった人の情報にアクセスできずに困っている遺族だ。

 パスワードの解除やデータ復旧の価格は30万円前後。中でも米アップル製品は暗号化が高度で、ロックの解除自体が難しい。DDSでパソコンの復旧が専門の井滝義也氏は「パスワードの壁を突破できても、削除済みデータは戻せない場合がある」と話す。

 デジタル遺品研究会ルクシーの古田雄介代表理事は「個人を守る技術は進んでも、故人は置いてきぼりになる」と指摘する。最近はハツキングやウイルスへの対策として、指紋や音声などで本人確認する生体認証が出てきた。こうした技術が一般に広がれば、亡くなった人の情報に触れるのはますます難しくなる。

 テレビ朝日で7月から放映されたドラマ「dele」では、生前に依頼のあった故人のデジタルデータを消す仕事が題材になった。「残したい自分を選んでもらう。それがうちの仕事だ」というセリフが記憶に残る。現実世界でも近い将来、個人の意思でデジタル遺品の取捨選択ができるようになりそうだからだ。

 葬儀会社のアーバンフューネスコーポレーション(東京・江東)が来年始めるデジタル遺品整理サービス。「スマホの暗証番号と写真は妻、メールは社員、SNSは抹消」など、死後のデータの提供先を細かく決めておける。遺族が死亡診断書を出すと、指定ごとにアプリ内の箱を開けられるカギを発行する。

 ブロックチェーン(分散型台帳)技術で契約内容を管理し、死後は速やかにデータを指定された先に共有する。生前契約があるため、抹消することを選んだデータはプログラム側で自動削除する。ブロックチェーンで契約改ざんのリスクも低い。

 死後に一言でも残された人と話せれば。そんな不可能に近づくサービスも登場した。米国のスタートアップが考案した「エターニミー」は、愛する人を失った家族や友人が生前のように故人との会話を疑似体験できる。SNSなどでの発言や交流から故人の記憶や態度を人工知能(A1)が再現し、遺族は故人との会話を追体験できる。


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 いくら精密に再現されたとしても、AIは故人の意思表示はできない。デジタル時代を生きる人は自分のデータを守るだけでなく、死後に家族や友人にどう引き継ぐかを考えなければいけない。遺産の相続などと同じように、生前に意思表示をするのが当たり前になるだらう。臓器提供のように、免許証の裏に記入欄が設けられるかもしれない。

 引き継ぎたくないデータは未米水劫抹消するという選択肢も手にしている。「もしもの時」が訪れる前に、生きた痕跡を簡単に取捨できるようになる未来がすぐそこにある。どの自分を残し、どの自分を残さないのか。休みの日に1人で考えたり、家族と話し合ったりしてみたいと思う。それは自分のこれまでを振り返り、今後の生き方を考えることでもある。

 

 

 

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