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父の教えと故郷への思い

 

 

 

 

公明党代表

山口 那津男氏

 

やまぐち・なつお 1952年生まれ。東京大卒。弁護土ののち、政界入りし、衆院議員2期、参院議員3期。公明党政調会長などを経て2009年から現職。





 本をよく読むようになったのはどうしてですか。


 叔父が講談社に勤めていて、たくさん本をくれました。その影響があったと思います。レコードと豪華解説書がセットになったクラシック全集ももらってうれしかった。あと、少年マガジンもですが(笑)。

 学校や図書館にあった歴史や地理の本は片端から読みました。誠文堂新光社の『世界地理風俗大系』を23巻全部読んだ人はそんなにいないでしょう。偉人伝も好きで、講談社の『少年少女世界伝記全集』などを読みました。中学生のとき、感想文の宿題に選んだ『リンカン 奴隷解放の先駆者』(石井満著、旺文社文庫)は忘れがたい一冊でした。

 「ジュニア版 太平洋戦史』 (秋永芳郎・棟田博著、集英社)は父が買ってきました。父は海軍の水路部に入り、戦前は南方の島々の気象観測などをしていました。太平洋戦争の準備だったのでしょう。

 その後、中央気象台の気象技術官養成所を受験するよう命じられます。船で島伝いになんとか戻ってきて、かろうじて合格し、玉砕したアッツ島行きを免れたそうです。結局、大学扱いだった養成所の生徒として学徒出陣することになりました。ですから、戦争にはとても厳しい見方をしていました。小さい私に難しい本を読ませてもわからない。でも、わからせたい。ということで、選んだのでしょう。


  父・秀男さんが関わった本がある。


 父は戦後、私が生まれた茨城県那珂湊町(現ひたちなか市)や日立市で、気象関係の仕事をしました。気象庁出身の作家新田次郎さんが講演に来た際、こんな話がありますと紹介して生まれたのが『ある町の高い煙突』です。作者あとがきに名前が出てきます。

 1914年、日立市に高さ世界一の大煙突ができました。日立鉱山の煙害を小さくするためですが、作物がとれなくなった農民を建設工事に雇うことで生活補償にもなりました。公害というと、被害者が企業と闘う構図になりがちですが、これは関係者が一緒になって解決に努力した物語です。昨年、文庫本の新装版が出たので、公害で困っている中国にも持って行き、中日友好協会の唐家職会長らに「こういうやり方もありますよ」と話しました。

 ふるさとでいうと、母校の水戸一高に徹夜で歩き続ける「歩く会」という伝統行事があります。これをモチーフにしたのが、後輩である恩田陸さんの『夜のピクニック』です。映画化の際、同窓生が何人か保護者役でエキス上ラ出演しました。母校の思い出がこういう形で共有できるのは幸せなことです。私の座右の銘「至誠一貫」も、もとは将軍徳川慶喜の筆になる母校の校是です。

 近年、ドラマなどで慶喜を鳥羽伏見の戦いの際、おじけ付いて逃げた人として描いていることがあります。それは戊辰戦争を戦った人たちが明治になって広めたものでしょう。尊皇をはぐくんだ水戸藩出身の慶喜は、時代の先を見通して大政奉還をしたからには、無益な血を流すべきではないと考えたのでしょう。それを描こうとした司馬遼大郎の『最後の将軍』(文春文庫)を考えるヒントにしてもらいたいですね。


  詩集も読まれるとか。


 米詩人ホイットマンの『草の葉』の底流にある開拓者魂のようなものには、随分と支えられました。「さあ、行こう! 苦闘と戦いを突きぬけて! /名ざされた目的地は、いまさら取消しがきかないのだ」とのくだりが好きです。大学に入る際は浪人し、司法試験はなかなか受からず、選挙も落選を経験しました。苦しいときに読み返して励まされました。

 人生観に影響した本では、『人間の土地』も挙げておきます。読んだきっかけは、高校の教科書に載っていたからですが、『星の王子さま』の印象から、ふわふわした人かと思っていたら、全く違いました。死との瀬戸際で生きることの大切さを示した本です。

 仕事絡みで読んでよかった本もありました。『周恩来十九歳の東京日記』』は周首相の母校の南開大学で講演した際、事前に読みました。デパートなどを訪れたときの感想が率直に書かれていて面白かったです。

 

 

 

【私の読書遍歴】


 《座右の書》

 『草の葉』(W・ホイットマン著、福田陸太郎訳、三笠書房)。19世紀に米国で出版された。韻律にとらわれずに表現する自由詩の先駆け。

 『人間の土地』(サン=テグジュベリ著、堀口大學訳、新潮文庫)。飛行士としての経験を題材にした随筆的な作品。いくつかのエピソードは『夜間飛行』などに取り込まれた。


 《その他愛読書など》

@『ある町の高い煙突』(新田次郎著、文春文庫)。鉱山の煙害に苦しんでいた茨城県日立市に大煙突ができるまでを描いた。映画化され、今年公開予定。


A『夜のピクニック』(恩田陸著、新潮文庫)。24時間かけて80キロを歩く学校の伝統行事「歩行祭」を舞台にした高校生の青春もの。本屋大賞を受賞し、2006年に映画化された。


B『周恩来「十九歳の東京日記」』(矢吹晋編、鈴木博訳、小学館文庫)。毛沢東とならぶ中国の指導者だった周が日本に留学していた若き日の日記。デパートや靖国神社を訪れたときの感想がつづられている。

 

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