日経郵送世論調査特集



浮かぶ日本人の姿



日本経済新聞社は郵送による世論調査を初めて実施した。毎月実施している電話調査に比べてじっくりと回答できる特性を生かし、答え方が複雑なものも含めて多くの質問を投げかけた。景気や暮らし、働き方、政治・外交などの回答から、いまの日本人の姿が浮き彫りになった。

■調査は日経リサーチが全国の有権者から層化2段無作為抽出法で3000人を抽出し、郵送で調査を実施した。昨年10月24日に調査票を対象者に郵送し、11月30日までに返送された有効回答は1673件。回収率は55・8%。数字は四捨五入したため、合計が100%とならない場合がある。




「信頼できる」トップは自衛隊



裁判所や警察

検察が続く

8つの機関や団体、公職を挙げてそれぞれの信頼度を尋ねたところ「信頼できる」が最も高かったのは自衛隊で6。%に上つた。5割を超えたのは自衛隊のみで、次いで信頼度が高かったのは裁判所(47%)、警察(43%)、検察(30%)、教師(32%)の順で、司法・捜査当局への信頼が高かった。これらはいずれも「信頼できる」が「信頼できない」を上回つた。


 特に自衛隊についてはいずれの世代も信頼度が6割前後と高く「信頼できない」は7%にとどまった。平成は災害が相次いだ。過酷な現場で被災者を救出したり、避難所の支援をしたりする姿などが繰り返し伝えられ、高く評価されているとみられる。


 逆に「信頼できない」が多かったのは国会議員で唯一5割を超えて56%だった。マスコミ(42%)、国家公務員(31%)が続いた。いずれも20歳代以上で「信頼できない」が「信頼できる」を上回っていた。国家公務員とマスコミは「どちらともいえない」が共
に4割強だったが、国会議員は32%だった。


 マスコミは「信頼できない」と答えた人の割合は70歳以上が20%台だったが、60歳代が34%、50歳代が41%、40歳代が47%で、30歳代では58%と5割を超えていた。18〜20歳代は60%と最も多く、若い世代ほど「信頼できない」と答える人が多かった。

 

 

 

 

 

 





英など先進国に好印象



周辺国には

否定的な回答

 主要国・地域への友好意識では、英国やオース卜ラリアなど欧米先進国への好感度が高かった一方で、日本の周辺国には否定的な回答が多かった。歴史認識の問題に加え、北方領土や沖縄県・尖閣諸島を巡る対立などで、外交関係がぎくしゃくしていることが背景にありそうだ。


 最も好感度が低かったのは北朝鮮だ。「嫌い」と答えた人は「どちらかといえば嫌い」を含めて82%に上る。北朝鮮は米国と非核化交渉の動きをみせるが、核・ミサイル開発の脅威は消えていない。


 次に低いのは中国の76%。同国による南シナ海の軍事拠点化や、沖縄県・尖閣諸島周辺への中国公船の侵入などが外交問題となっており、否定的な印象につながった可能性がある。中国と北朝鮮は、すべての世代で否定的な回答が肯定的な回答を上回った。


 韓国に否定的な印象を持つ人は61%だった。世代が上がるほど「嫌い」 「どちらかといえば嫌い」と答える人の割合が増える傾向にあり、60歳代では約7割に上つた。ロシアも約6割が否定的な印象を持つ結果になった。


 一方、好感度が最も高かったのは英・豪で「好き」 「どちらかといえば好き」の合計はそれぞれ72%。米国は67%だった。観光地として身近なタイやシンガポールなどの東南アジア諸国も、肯定的な回答が多かった。


 

 

 

 




政治への関心「高い」全体で34%



男性は44%に

女性24%どまり

 

 

 政治に関する関心は「高い」が34%で「低い」の31%を上回った。男女別でみると、男性のほうが女性より政治への関心が高い。男性は「高い」が44%で「低い」の23%を大幅に上回った。対照的に女性は「低い」が38%で「高い」が24%だった。


 世代が上がるほど政治への関心が高まる。18〜20歳代は「高い」が20%で「低い」の51%の半分に満たない。30歳代、40歳代も「低い」が「高い」を上回る。一方、50歳以上の世代になると「高い」が「低い」より多い。70歳代では「高い」が47%と「低い」の10%の倍以上だった。


 未婚者より既婚者の方が政治の関心が高いと答えた。未婚者は「高い」が28%で「低い」が42%、既婚者では36%と27%だった。


 地域別では首都圏(東京・千葉。埼玉・神奈川)で「高い」が40%と「低い」の28%を上回つた。関西圏(大阪、京都、奈良、兵庫)では「高い」が32%「低い」が31%、その他の地域では「高い」と「低い」が32%で並んだ。首都圏での政治への関心の高さが顕著に表れた。


 職業別では正規の職員・従業員とアルバイ卜・派遣社員は「高い」と「低い」が拮抗した。自営業では「高い」が30%で「低い」の24%を大きく上回つた。無職と答えた人では「高い」が32%で「低い」が27%だった。

 

 

 



夫婦の役割分担、世代間で隔たり



家事は「主に妻」

40〜60代で半数

 

 

 

 夫婦の役割分担は世代間で意識の隔たりがある。


 炊事や掃除、洗濯など家事全般について、全体では「夫も妻も同じように行うのがよい」が36%、主に妻が行い、夫も手伝う」が47%、「妻が行う」が12%だった。「夫が行う」は0%だった。


 18〜20歳代は「夫も妻も同じように」が60%に達する一方、40〜60歳代は3割台となり主に妻」が半数を占めた。政府は女性活躍を推進しているが、働く世代では年齢層が上がるほど「家事は女性の役割」との考えが根強い。


 育児については「同じように」が40%、「主に妻」が37%、「妻」が6%となった。’「夫も妻も同じように」は家事に比べれば多いが、50〜60歳代は50%前後、18〜20歳代は64%と差があった。


 介護は世代間の意識差が最も小さかった。「夫も妻も同じように」の割合は30歳代が58%と低かったが他の世代は軒並み70%前後と高水準。親が高齢者となった当事者世代は夫婦の協力が不可欠とみている姿が透ける。


 既婚と未婚で回答を分析すると、家事全般について未婚者は「夫も妻も同じように」が53%、「主に妻が36%だったが、既婚者はそれぞれ31%と51%で比率が逆転。子育ても未婚者は「夫も妻も同じように」の61%が、既婚とて45%に低下した。結婚前後で意識の変化も大きいようだ。

 

 

 


 

 

日用品価格「上がった」73%



物価上昇の感覚 高年齢層が強く

 

 

 日用品の価格(税込み)が1年前に比べてどうなったかを聞いたとこら、上がったと感じている人が73%を占めた。総務省によると、2018年の物価水準は15年を100とすると101〜102程度。100前後で推移した17年を上回つており、消費の現場ではこうした物価上昇を敏感に感じる世帯が多いようだ。


 世代別で最も高かったのは70歳代の80%だ。50歳代と60歳代が74%で続き、高年齢層ほど物価が上昇している感覚が強いようだ。総務省の家計調査をみると、消費支出に占める「食料」の比率は世帯主の年齢が上がるほど高い傾向にある。人手不足や原料高なとてパンや納豆など食品の値上げも相次ぎ「食料」の物価上昇率は全調査品目の「総合」を上回る月が多かった。足元では高齢世帯ほど負担を感じやすい構図になっている。


 1年後はどうか。日用品の価格(税込み)が上がると回答した人は83%。特に中高年層で上昇するとの回答が多く、60歳代、70歳代はいずれも87%だった。性別では女性が85%で男性より3ポイント高い。


 上昇幅の予想を聞くと「0〜2%程度」が36%、「2〜5%程度」が37%と桔抗した。「5%より大きく上がる」も10%あった。10月に消費税率が8%から10%に上がり、飲料や冷凍食品などの値上げが相次ぐ見通しもあることが影響しているとみられる。

 


 

 




資産運用「預貯金」が67%



株式や投信は2ケタ届かず

 

 

 資産運用先(複数回答)を尋ねたとこら「預貯金」が67%と最も多く「保険」の28%が続いた。「運用はしていない」と答える人も22%に上つた。日本の家計金融資産は1860兆日に達する。政府は積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)の創設などで個人のリスク資産投資を後押ししているが、調査では「貯蓄から投資」の流れがなかなか進まない状況が鮮明になった。


 リスク資産による資産運用をみると「日本の個別株式」が9%、「日本株投資信託」が7%、「海外株投資信託」が5%にとどまった。「外貨預金やFX取引」 (3%)、「金や銀など貴金属」(1%)も少数だった。


 特に「預貯金」と「保険」による運用をしているとの回答が多かったのは、乳幼児のいる世帯。預貯金が70%、保険が45%に達した。将来の出費が確実な養育費や学費などを安全性が高い資産で準備しているためとみられる。


 一方で高所得層は株式や投資信託、外貨預金などリスク資産での運用の割合が増える傾向があった。世帯年収1500万円以上では「日本の個別株式」が33%、「日本株投資信託」が20%、「外貨預金やFX取引」が13%に達し、いずれも全体の平均を上回った。世帯年収300万円未満では「運用はしていない」との回答が30%だった。

 

 


 

 




科学技術政策、力を入れてほしいのは



「医療・健康」最多 「環境・エネ」続く

 

 

 政府の科学技術政策について力を入れてほしい分野(複数回答)を尋ねたところ、最も多かったのは「医療・健康」の85%だった。60歳代以上で90%前後に達した。


 ips細胞を使う再生医療や免疫の働きを利用したがん治療薬など、病気の克服や健康の維持につながる新技術への期待があるとみられる。高齢化に伴う認知症患者の増加といった課題への対処の重要性も増している。


 次いで多かったのは「環境・エキルギー」で66%だった。18〜30歳代の若い世代の関心も高かった。豪雨や猛暑による被害の多発で、地球温暖化対策の必要性を感じる人が増えていることなどが背景にあるようだ。


 「防災」(64%)や「地震」(51%)を含め、全般的に安全や安心にかかわる分野に多くの期待が集まった。

 



憲法改正、高齢者層「反対」多く


世帯年収高いと積極的な声多く

 

 

 憲法改正に関しては「改正しない方がよい」が50%で「改正した方がよい」が46%だった。18〜50歳代は「改正した方がよい」が「改正しない方がよい」を上回つたが、60歳代以上は「改正しない方がよい」の方が多かった。


 世帯年収が高いほど、憲法改正に積極的な声が多い傾向もあった。500万円未満の層では「改正した方がよい」より「改正しない方がよい」の方がやや多いが、500万〜800万円未満では措抗し、800万日以上では「改正した方がよい」が多い。


 調査手法などが異なるため単純に比べられないが、昨年4月の電話世論調査では憲法改正について「現状のままでいい」が48%で「改正すべきだ」が41%だった。調査手法だけでなく、その時の与野党の論戦などの政治情勢でも賛否は変化する。


 



家計負担重い費目「食費」48%



「税・社会保障」広い世代で高く

 

 

 家計負担が重い費目(3つまでの複数回答)を聞いたとこら「食費」が48%で最多たった。「住宅」は23%、「水道・光熱費」も22%を占めており、生活に必須な費目の負担感が強い。


 社会保障関連の費目を負担に感じる人も多い。「税・社会保障」の負担が重いと回答した人は40%と、食費に次いで高い。50〜60歳代の負担感が大きいほか、20歳代は35%、30歳代は44%と食費に次ぎ2番目に高かった。20歳代は食費が61%、30歳代は住宅が41%、70歳代は健康・医療が42%を占めるなど世代で特徴的に高くなる費目もあった。


 税・社会保障を負担に感じる人の割合を職業別にみると、正社員が30%だったのに対し自営業者は54%だった。会社と応分負担の正社員に対し、自営業者の負担感がより強い様子がうかがえる。

 

 

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