グローバル ウオッチ
オーストラリア
教会不信増える「無宗教」
オーストラリアで、キリスト教離れが進んでいる。2016年の国勢調査では「無宗教」と答えた人が3割とキリスト教の「力トリック」を上回り最多となった。若者の教会離れに加えて、教会で長年性的虐待が行われていたとの報告書が国内で発表されたこともキリスト教には逆風となる。イスラム教やヒンズー教は増加傾向だが、今後もキリスト教離れによる「無宗教」の増加は続きそうだ。
「教会は神の教えを伝えることより伝統的な慣習に重きを置いている。性的少数者(LGBT)への接し方にも疑問を感じる」。シドニーに住む男性(50)は数年前、キリスト教の教会へ通うことをやめた。
「生活が豊かになると、人々は宗教に背を向けるのかもしれない」。シドニー北部にある英国国教会系の教会で牧師を務めるマーカス・ドゥルイット氏(36)はこう話す。地域の家庭を戸別訪問して市民と聖書の教えについて意見交換を行うが「裕福な地区よりもそうでない地区の方が人々は関心を示す」。
ドゥルイット氏は貧困家庭を教会に招いての食事の提供や食品の寄付、移民の子ども向けの英語教育など、慈善活動にも熱心だ。対象は宗教や宗派にかかわらず市民全般で、晋段礼拝に通わない幅広い層が教会に足を運ぶきっかけにもなる。ただ、こうした活動も、キリスト教離れを食い止めるには至っていない。
16年の国勢調査によると、キリスト教の多くの宗派は11年に比べ信者の割合が減少している。11年に最多の「力トリック」は25.3%から22.6%になり、30.1%に増えた「無宗教」に抜かれた。「英国国教会」も17.1%から13.3%へと3.8ポイント4落ちた。キリスト教全体の割合は52.1%。50年前の1966年は88.2%がキリスト教のいずれかの宗派と答えていた。
背景には実際のキリスト教離れに加え、「無宗教」に関する活動もあるようだ。
「豪無神論者財団」代表のスコット・シャラド氏は16年の国勢調査の結果について我々のキンペーンが奏功した」と胸を張る。財団は調査前、信仰する宗教がない場合は両親や祖先の宗教ではなく無宗教」を選ぶよう働きかけ、「宗教を持たなくても問題ないと、豪州人に気付かせた」という。豪州のキリスト教で主流の力トリックと英国国教会の減少率が高かった理由には明言を避けたが「教会の過去のスキャンダルが部分的な要因になっているかもしれない」と指摘する。
豪州では長く宗教施設で子どもへの性的虐待が行われたとの懸念がくすぶってきた。調査を求める声が高まったことを受け政府は13年に王立委員会を設置、約5年かけて調査を実施した。17年に公表された最終報告書は「何万人もの子どもが性的に虐待された」として「国家的な悲劇」と虐待を厳しく指弾した。子どもが被害を受けた宗教施設は61.8%が力トリック、14.7%が英国国教会だった。
力トリックの団体「全国福音センター」理事のジェーン・ドワイヤー氏は「王立委の調査を受け、カトリック教会との結びつきに疑問を抱いた人もいる」と認める。無宗教の増加も「組織化された宗教に怒りを感じる人が相当数いる」と話す。
キリスト教が信者の割合を減らす一方で、増加したのがイスラム教とヒンズー教だ。イスラム教は11年の2.2%から16年には2.6%に、ヒンズー教は1.3%から1.9%になった。増加の要因は多様な国からの移民だ。
シドニー西部にあるオーバーン・ガリポリ・モスクは1970年代、地域に多いトルコ系移民のための施設として設立された。だが現在、モスクに通うトルコ系の信者は20%程度。オフィス・マネジャーのエリガン・ゲキル氏(50)は「レバノン、アフガニスタン、パキスタン、バングラデシュ、インドキシアやマレ―シアなど様々な国の出身者が訪れる」と話す。
モスクは、子どもや若年層向けの「ユース・センター」も併設。幼児教室から10代を対象とした武術やサッカーのコースなどプログラムは幅広い。「若者にモスクに来る動機を与えているのさ」とゲネル氏は冗談まじりに語る。イスラム教徒の出身国の多くは伝統的に家族の結びつきが強く、親から子に宗教が伝承されていることも信者増加の一因となっているようだ。
オーストラリア国立大学特別研究員(人口動態学)のリズ・アレン氏は「今後豪州でさらに宗教は多様化し、同時に『無宗教』の人口も増加する」とみる。民族や歴史、社会状況など複雑な要素が絡み合う宗教別人口構成の変化は、多文化主義国家、豪州の歴史とも重なるようだ。