「中国のハイテク政策危険」
ナバロ補佐官に聞く
卜ランプ米政権のナバロ大統領補佐官(通商担当)は日本経済新聞の取材に「中国による技術への攻撃は、米国だけでなく日欧の将来も脅かす」と厳しい対中不信を表明した。米政権は中国製通信機器の排除や中国人の産業スパイ摘発など、実力行使に打つて出る。ナバロ氏は対日貿易にも注文を付け、日本の自動車メーカーに対米投資の積み増しを求めた。
「中国のハイテク分野の産業政策は、米国だけでなく欧州にも日本にも危険なものだ。知的財産権の侵害、技術移転の強要、産業補助金、あらゆる施策が世界貿易機関(WTO)ル―ル違反だ」
ナバロ氏はインタビュー中、中国の産業政策を分析したボードを持ち出して@国内市場保護A世界シェア拡大B資源囲い込みC製造業の独占D技術獲得E先端産業育成――の6分野で、サイバー攻撃や為替操作など53項目もの不公正な政策を続けていると主張した。
「中国は5ヵ年計画をつくり、政府主導で大量の産業補助金を投じている。中国産業を守るため、高率の輸入関税を課し(許認可などの)非関税障壁もある。これら全ての解決が90日間の米中交渉の主題だ」
アルゼンチンで1日開いた米中首脳会談では、習近平国家主席から45分にわたって市場開放策などの説明を受けたという。それでも90日間の米中協議に関しては「合意は険しい」と率直に認めた。
協議が難航するとの見立ては、「中国は約束を破り続けてきた」との不信感に根ざしている。習政権は15年、オバマ大統領(当時)との首脳会談で産業スパイやサイバー攻撃をしないと取り決めた。にもかかわらず「20日には中国・国家安全省のために働いた中国人が米国へのサイバー攻撃でまた起訴された」。
「華為技術(ファーウェイ)製品は極めて危険だ。ハードだけでなくソフトウエアにも明確なリスクがある。(同社製品の排除は)米国だけでなく(軍事機密を共有する)ニュージ―ランド、オーストラリア、英国、カナダにも広がるだろう」
米連邦政府がファーウェイ製品など一部の中国製通信機器を排除した理由を「市民や政府へのスパイ活動に使われる可能性があるからだ」と説明した。米中の対立は貿易問題からハイテク分野の覇権争いに発展し、サイバー攻撃の摘発など刑事司法にまで波及している。
日米貿易にも不満
「対日貿易赤字は巨額だ。トランプ大統領は極めて真剣に、均衡ある公正な貿易を求めている。自動車分野でみれば、米国から日本への輸出量は、日本からの対米輸出の100分の1以下だ」
日米は近く物品貿易協定(TAG)交渉を開始する。日本については重要な同盟国だ」と認めつつも、「貿易面では日本が米国を利用してきた」と手厳しい。とりわけ自動車分野の貿易不均衡を問題視した。
通商交渉を主導するライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、カナダやメキシコなど相手国に自動車や鉄鋼などの輸出数量制限を要求してきた。数量規制はWTOルールに抵触するが、関税よりも対米輸出を確実に減らす効果がある。
日本にも自動車の輸出数量制限を要求するかどうか。ナバロ氏は「トランプ大統領やライトハイザー氏が判断することだ」と述べるにとどめた。日本には「自動車の環境・安全基幸など非関税障壁の引き下げが必要」と主張。自動車メーカーには「組み立て工場だけでなく、エンジンなど主要部品の生産も米国に移す必要がある」とも述べた。
「インフレ懸念もないのに、米連邦準備理事会(FRB)がなぜ金融引き締めに動くのか理解できない。19年にも2回も利上げするという。我々は2回は余計だと考えている」
米市場では株価下落が続く。トランプ氏はFRBの利上げが原因だと批判判し、貿易戦争への市場の懸念をそらしてみせる。主要高官が「金融曲策の独立性を重視する」(ムニューシン財務長官)とFRB批判から距離を置いているなかでも、々ブーを恐れないトランプ氏と歩調を合わせてみせた。
対中強硬派の筆頭
ピーター・ナバロ米大統領補佐官は、2016年の大統領選時にトランプ氏に重用され、そのままホワイトハウス入りした。経済学者時代に「中国がもたらす死」と題した映画を自作するなど、中国への姿勢は政権で最も厳しい強硬派だ。
「中国は世界貿易の最大のペテン師であり、米国にとって最大の貿易赤字国でもある。貿易の不正が続くならトランプ氏は防御的な関税を課す」。この過激な文言は大統領選直前に「トランプ氏の経済政策の評価」としてナバロ氏が発表したものだ。2年後、予告通りにトランプ氏は制裁関税を発動した。ナバロ氏は対中強硬策の支柱になっている。
政権発足当初は、ホワイトハウスに執務室すらなかった。コーン国家経済会議(NEC)委員長(当時)ら穏健派が通商政策をリードし、制裁関税などの過激策をことごとく覆した。ただ、支持率低迷に焦ったトランプ氏はコーン氏を更迭し、中国政策でナバロ氏の復権が始まった。
政権はペンス副大統領も中国への強硬姿勢を鮮明にしており「中国と取引する」と話すトランプ氏がむしろ中間派にすみぇる。ナバロ氏はムニューシン財務長官ら穏健派に「中国を利する安『な合意は避けるべきだ』といさめる立場にある。