データ力で君臨競合排除

 

独禁法に抵触指摘も



フェイスブック内部資料

 

英議会は5日、独自入手した米フェイスブックの内部資料を公開した。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)ら幹部陣が社内でやり取りした膨大なメールの内容が判明。個人情報の提供を巡って競合企業を締め出すなど、専門家からは欧米で独占禁止法に抵触する恐れも指摘される。世界で約20億人が利用する交流サイ卜(SNS)最大手に風当たりが強まっている。

 

 英議会が追及するのは同社の3つの問題点だ。第1に無料サービスで集めた膨大な「データ力」を武器に、自社に有利になるように競合を排除した疑いが浮上する。

 ツィッターを締め出します」 「よしやってくれ」。内部資料によると2013年1月、フェイスブックは利用者情報を米ツィッターに提供していたが、幹部がこれを中止するようメールで提案。ザッカーバーグ氏は即座に容認したという。

 この頃、ツイッターは6秒動画の投稿サービスを導入し、フェイスブックとの競争が激化していた。データ提供の中止は、その対抗措置のひとつとみられる。

 海外の独禁法に詳しい井上朗弁護士は「データにおける支配的地位を悪用して競合相手を不当に排除したとみなされ、欧米で独禁法違反に問われる恐れがある」とみる。

 11年から12年にかけ米連邦取引委員会(FTC)のシニアアドバイザーをつとめたコロンビア大学のティム・ウー教授も「独禁法違反で議論が必要だ」と自身のツイッターでコメン卜した。

 2つ目は個人情報の取り扱いのずさんさだ。フェイスブックは提携する一部企業には特別に利用者情報を提供していた。国際的に情報管理の甘さを指摘されていた企業も含まれていたという。

 シェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は12年、ザッカーバーグ氏に「データ交換で互恵関係をつくっていくのはいい手だ」とメールで提案。データ提供先を日常的に選別している実態が浮き彫りになった。

 提供先は米民泊大手のエアビーアンドビーや米動画配信大手ネッ卜フリックスなどのほか、ロシア発の英デー卜アプリ、バドウーなども含まれていた。バドウーは16年、個人情報が犯罪者集団が使う闇サイ卜群「ダークウェブ」内で流通しているのが確認された。

 フェイスブックは現在、こうした外部企業へのデータ提供を原則的に取りやめたとしている。

 フェイスブックが過去に個人情報を外部企業に売る収益モデルを検討していた様子も明らかになった。実現には至らなかったが、利益優先の体質が批判を集める恐れがある。3番目の問題点だ。

 12年11月、ザッカーバーグ氏は幹部らに「データの見返りに課金する選択肢もありうる」とするメールを送信。個人情報を「換金」する検討を指示したとみられる。

 本人の同意のない個人情報の利用は近年、各国が保護ルールを厳格化。欧州連合(EU)が今年5月に施行した一般データ保護規則(GDPR)は、違反企業に巨額の制裁金を科すよう定める。

 内部資料は英議会の調査権を使ってフェイスブックと係争中の米企業から押収した。フェイスブックから流出した個人情報は、英国のEU離脱(ブレグジッ卜)を決める国民投票の政治工作に使われた恐れもあり、英議会が重大視している。

 フェイスブックは(資料は)全体の一部だけを切り取ったもので誤解を招く」と指摘。「外部ヘデータを売ったことはない」と反論している。

 ドイツ当局も現在、フエイズブックを独禁法違反の疑いで調査中だ。データを巡る独占的な地位を使い、消費者に不利な条件で個人情報利用の同意を強要した疑いが争点になっている。

 膨大な個人情報を集めるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドッ卜・コム)に対し、世界的に規制強化の動きがある。日本でも政府の有識者会が11月に規制のあり方を巡る中間報告案をまとめている。

 


個人情報成長に利用


利用者保護おざなりに


 英議会が公表したフェイスブックの内部資料から浮かぶのは「個人データを集めるだけ集めて稼ぐ」という同社の成長意欲だ。人と人の「つながり」で社会を良くするというメッセージの裏側で個人情報を守るといった企業責任がおきざりにされていた可能性がある。

 250ページに及ぶ資料は、2012年から15年にかけての社内メールのやりとりが中心。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)ら幹部陣が実名で登場する。

 例えば12年10月から11月にかけて、ザッカーバーグ氏が幹部陣に宛てた指示メール。データを提供する外部の開発者から対価を取るかどうかに言及。最終的には「(我々の目的は)ユーザーによる情報のシェアを増やすことだ」と明言し、個人データを大量に集めることの重要性を説いた。

 交流サイ卜(SNS)上のデータの価値を認識し、どう稼ぐかを模索していたとみられる。

 15年2月には、ある社員が米グーグルの基本ソフ卜(OS)「アンドロイ卜」を搭載するスマー卜フォン(スマホ)から通話履歴を取る計画を提案。これに対し、ザッカーバーグ氏は「広報上はリスクがあるが、成長戦略チームが進めてくれる」と容認した。ユーザーのプライバシーよりも、自社の成長を重視する姿勢がうかがえる。

 英議会があぶり出したのは、同社のずさんな管理体質だ。お膝元の米国でもプライバシー保護への機運が高まっており、関連規制や米政界の追及が強まる可能性がある。コーポレー卜ガバナンス(企業統治)の不備も指摘されており、幹部陣の経営責任を問う株主の圧力は高まりかねない。

 さらに同社には「内部崩壊」という最大のリスクが忍び寄る。イメージ悪化で給与と連動する株価の下落が続けば、ザッカーバーグ氏らの求心力低下は必至だ。「優秀な人ほど転職を考えている。スター企業から一気に衰退したヤフーを見ているようだ」。元幹部はそう打ち明けた。

 

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