ホワイトハウスは賭博場



米著名記者ウッドワード氏に聞く



トランプ流は「統治の危機」



トランプ政権の内幕を記した「FEAR 恐怖の男」の著者、ボブ・ウッドワード氏が日本経済新聞の取材に応じた。かつてニクソン元大統領の不正をスクープした同氏はホワイトハウスが危うい政策の「カジノ(賭博場)」と化したと警告し、中間選挙後の米国に「激変の前兆」があると語つた。


――米大統領を描く本はニクソン氏から9代連続です。今回の焦点は。

 「北朝鮮や中東、中国に対する外交政策、税制や貿易など経済政策を全面検証した。結論は政府が善悪の判断を見失う機能不全状態だということだ。大統領は現実外れの持論で政策のギャンブルをしている。ホワイトハウスは新しいカジノだ」



権力とは「恐怖」

 

――恐怖(FEAR)という題にはどんな経緯が?

 「2年半前、トランプ氏へのインタビューで権力をどう使うかと聞いた。『真の権力とは・・・この言葉は使いたくないが・・・恐怖だ』が答えだった。極力、人を恐れさせるのが力の源泉だというのだ」

 「大統領は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長に、こっちの核ボタンは君のよりも大きいと脅し、会談が実現した。戦争をしないと約束して敵意を散らしたのはいい。だがトランプ氏は北朝鮮が核を廃棄するという極めて非現実的な期待をしている」


――取材の過程は。

「関係者の自宅を訪ね、話を聞いた。大統領に近い人々も彼の政策や行動に憂慮しているからこそ、家に上げてくれた。この国は『統治の危機』にひんしている。日記や内部文書を入手し、本に多くを盛り込んだ」


――トランプ氏の考え方や行動への評価は。

 「貿易赤字で米国がお金を失うという理屈は明らかな間違いだ。安く品質の良い物が買えれば他の消費にお金を回せる。それでも政権は中国への制裁関税に突き進む。貿易戦争は経済学博士の中国に幼稚園で遊ぶ米国が挑んでいる構図だ」

 「トランプ氏は選挙に勝つ期待もなく大統領に当選し、自己確認と快感を覚えた。『みんな間違いだ。おれは正しかった』と確信した。日本や韓国などとの防衛同盟は資金の無駄だと彼は思つている。マティス国防長官が『格安な出費です』と言つても理解しない」


――それでも9割を超す共和党員はトランプ支持という事実は?

「重要だ。エリートや不平等への怒りに『私はあなたの味方です』と応え、人々は共感した」


 
激変への前兆


――中間選挙で上院は共和党、下院は民主党が多数を獲得しました。

 「トランプ氏は行政府を完全に、司法の最高裁判所を効率的に支配し、立法府のなお半分を押さえる。大統領ぼ任期中に権力を強めるが、トランプ氏は誰よりもその傾向が顕著で、権力を自分のために行使している」

 「一方で中間選挙には激変への前兆がある。有権者の間でトランプ氏の統治や発言への考えが変わりつつある。人々は現在と将来に不安を抱き始めた。経済は好調だが、企業や富裕層の減税という、甘い物で子供が元気づく類いの刺激策だ。これから厳しい経済の冷却や収縮の時期が来る」


――2年後には大統領選挙です。トランプ氏は再選すべきでないと?

「私は党派には寄らない。左翼だとか右翼の陰謀勢力の一味だとか言われるが『超中道主義者』だ。トランプ氏が再選するかどうかも、民主党で誰がトランプ大統領に挑戦するかもわからない」


 ――政権は批判的なCNN記者の取材証を奪いCNNが提訴しました。

 「ニクソン政権が45年前に使った手法だ。当時の報道官は私や同僚の力ール・バーンスタインを公然と非難し、我々は『人格の暗殺者』と、今のフェイクニュースよりひどい言われ方をした」


 「メディア側に問題を作らせる政権のワナにかかったメディアが大統領の個人攻撃を始めている。必要なのは政策、議論、結論の入念な検証だ。ジャーナリズムの根幹は徹底した細部にある」



 


ニクソン政権の不正暴く

 

調査報道の先駆者


 ボブ・ウッドワード(BobWoodward)氏 1943年生まれ、エール大卒後に海軍へ。退役後、地方紙を経て米紙ワシントン・ポスト入りした。ニクソン大統領の再選を目指すグループが野党の民主党本部に盗聴装置をしかけた「ウォーターゲート事件」、でニクソン氏が事件の隠蔽に関わった事実を明るみに出し、頭角を現した。 

 調査報道の先駆けとなったこの報道で73年、同僚記者とピュリツァー賞を受賞。その後も歴代政権の内幕を描く著作を出版し、著名ジャーナリストの地位を確立した。

 今回の新著「恐怖の男」では、軽率に重要政策を決定するトランプ大統領に政権高官が振り回される様子を描いた。。トランプ氏の暴走を食い止めようと周辺が書類を隠すなど豊富なエピソードがちりばめられている。

 

 

 

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