「働くとは」考える集団へ



会社は個人の力発揮の場に


働き方改革663社調査



働き方改革関連法が成立した2018年は日本経済にとって歴史的な節目の年として位置づけられるだろう。日本企業は方向性が決まると速い。時間短縮、テレワークの普及など数年内に一段と進みそうだ。もっとも働き方改革は形の問題ではない。会社は個人の能力を効率よく、最大限に発揮させる「場」に脱皮できるのか。質的転換のスタートにすぎない。

 

 

 

 働き方改革関連法の柱は残業を年間720時間までに抑制するほか、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消する「同一労働・同一賃金」などを柱としている。日本経済新聞が実施した社長100人アンケートではすでに残業上限への規制に7割が対応しているという。

 人手不足感が強まる中、今の学生は待遇に敏感だし、情報収集も優れている。このため優良企業の働き方改革メニューはファミリーレストランのように豊富だ。18年のスマートワーク経営調査でトップクラスに顔を出しているアサヒグループホールディングス。16年10月からコアタイムを設けないスーバーフレックスを週1回、在宅勤務を月1回以上取得するように推奨している。

 このほか1日の勤務終了後に一定の休息時間を確保するインターバル制度をグループ会社のアサヒプロマネンメントが今年4月から、アサヒビールは9月から導入している。ちなみにアサヒビールでは1月から年間の所定労働時間を1837時間30分から、1815時間に短縮している。1日の所定時間7.5時間の3日分に当たり、本給の変更もない。

 同じく上位のサントリーホールディングスも躍起だ。「働き方改革推進リーダー制度」をつくり、ノウハウや事例を共有し、業務自動化ソフトの導入を進めている。テレワークになると、対象者の8割超の5000人が利用している。

 外資系はさらに進んでいる。アフラック生命保険は15年から「ワークスマート」として改革に取り組んでいる。日木企業ではまだ進んでいない有給休暇の取得率が80%に達し、在宅勤務やフレックスは全員、全部門が実施している。

 なぜ政府が腰を上げるまで企業の働き方改革が進まなかったのか。原因の一つが高度成長型の製造業モデルが染みついていたからだ。口が増え、作れば売れる時代、時間をかければ生産性は上昇し、成長を実現できた。

 そして同じ場所で目標を一つに働く”チ−ムワーク信仰”も大きい。同じ空間でないと、生産性が上昇しない工場経営の発想だ。経済のサービス化・ソフ上化が進んでも、緊密なコミュニケーションの方が競争力がアップするとの見方から「同一空間・同一労働」を重視してきた。

 もちろん五輪のリレーチームのように、まとまりこそが日本の競争力という考え方に理もある。だが女性の社会進出、経済のグローバル化に伴い、従来”チームー丸り経営″は通用しなくなっている。ダイバーシティーが求められる今、「日本人はむしろチームワークが苦手」との指摘もある。

 同じ空間と同に発想に依存するのではなく、仕事の成果と報酬がリンクする自律性を持った社員が増えないと働き方改革は頓挫してしまう。アフラツクではテレワークによる本社業務の地方展開を進めている。「働く場所にとらわれることなく、キャリアの選択肢を広げる」のが狙いだ。

 コミュニケーションは大切だが、会社に行くことが目的ではない。「仕事とは何か」を再定義し、習慣を変える必要がある。顧客の抱える問題を解決し、その見返りとしての利益を得ることが最終目的だ。

 例えば清涼飲料の場合、新商品は増えているが、ヒット商品はない。「顧客のため」と掲げ、新商品を乱発しても無駄に終わる。家電、ファッションなど例外ではない。社員の均質的な思考パターンが一因で、横並びの体質が抜けきれない。働き方改革とはゴールにたどり着くためのプロセス刷新、アイデアを多く生む土壌作りなど、新たな場作りに他ならない。

 もっとも、経営者にとって実行は難しい。自分たちが過去の働き方改革の成功者だからだ。女性や外国人はもちろんのこと、フリーランスとプロジェクトを作つたり、他社とのコラボレーションを進めたり、過去の例のない働き方での成功体験を積み上げることが欠かせない。

 これからの経済は「生活と遊び」がますます重要になる。生活者にならないと、新たな発想も生まれない。働きやすさと働きがいを追求し、会社がトップダウンから、空間にとらわれない「考える集団」に変身できるか。経営者、社員の双方がハツピーになるにはこれしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

評価方法


 スマートワーク経営調査は「人材活用力」「イノベーションカ」「市場開拓力」の3分野に、企業の持続的発展のために必要とされる「経営基盤」を加えた4分野で構成される。企業向けアンケート調査や消費者調査、公開データなどから19の評価指標を作成し、企業を評価した。

 【アンケート調査の概要】

 企業向け調査は2018年5月、全国の上場企業3727社および従業員100人以上の有力非上場企業を対象に実施した。有効回答は663社(うち上場企業634社)。なお、有力企業でもアンケートに回答を得られずランキング対象外となったり、回答項目の不足から得点が低く出たりするケースがある。

 また一部指標においてはインターネットモニター(一般消費者2万523人、ビジネスパーソン2万431人)および日本経済新聞社の編集委員等(87人)の各社評価も使用した。


 【その他の使用データ】

 測定指標のうち、市場拡大の一部指標については、レコフM&Aデータベースを基に作成した。また、経営基盤の一部指標については、NEEDS(日本経済新聞社の総合経済データバンク)のコーポレート.ガバナンス関連データを基に作成した。

 【4分野と測定指標】

 4分野のスコアを測定する指標は以下の通り。

 人材活用力 方針.計画と責任体制、テクノロジーの導人.活用、ダイバーシティの推進、多様で柔軟な働き方の実現、人材への投資、ワークライフバランス、エンゲージメント、人材の確保.定着と流動性の8指標。

 イノベーションカ 方針.計画と責任体制、テクノロジーの導入.活用、新事業.新技術への投資、イノベーション推進体制、社外との連携の5指標。

 市場開拓力 方針.計画と責任体制、テクノロジーの導人.活用、ブランドカ、市場浸透、市場拡人の5指標。

 経営基盤 ガバナンス.社会貢献、情報開示を総合的に評価した1指標。

 【総合評価のウエート付け】

 各分野の評価を人材活用力(50%)、イノベーションカ(20%)、市場開拓力(20%)、経営基盤(10%)の割合で合算し、総合評価を作成した。

 【総合評価.分野別評価の表記について】

 総合評価は、各社の得点を偏差値化して作成した。★5個が偏差値70以上、以下★4.5個が65以上70未満、★4個が60以上65未満、★3.5個が55以上60未満、★3個が50以上55未満を表している。

 また、各社の分野別評価は、偏差値70以上がS十十、以下偏差値5刻みでS十、S、A十十、A十、A、B十十、B十、Bと表記している。

 評価に使用した各種指標の集計結果やスコアの詳細データは日経リサーチが提供する。詳細はHPを参照。


    (日経リサーチ 編集企画部)

 

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