米中、エリーエト層との闘い


  
双方の経済繁栄を左右


     グロ−バル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー

 

 米国と中国の緊張が今、金融などの市場に様々な影響を与えている。ァナリストらが注目するのは、関税や為替操作、戦略的技術、そして、貿易戦争での勝因、敗因を多く持つのはどちらか、といった点だ。

 しかし、両国の将来の繁栄と安定を考えるとき、もっとな問題がある。エリート富裕層をうまく抑えられるのはどちらか、という問題である。

 米経済学者の故マンサー・オルンンは1982年の著作「国家興亡論」で、文明は富を握る
層が政治に影響力を持つようになると衰退に向かう傾向があると論じた。確かに米中では富を握るエリート層が権力を振るう現象が明らかに起きている。両国の貧富の格差は割と似ている。中国では上位1%の富裕層が富の約30%を押さえ、米国では同⊥%が42%を握る。

 中国は、善しあしはともかく習近平国家主席の指令により、かつての上級幹部の子弟らを厳しく取り調べ、この問題に真正面から取り組んでいる。中国共産党は腐敗撲滅の旗印の下、何10万人もの人々を投獄し、一部を処刑してきた。こうした党がそれでも何らかの意味で道徳的に優れているとか、統治する正当性を維持できるのかといえば、思慮深い人の中には異論もあるだろう。だが、中国共産党のエリートたちは、腐敗撲滅運動は中国の経済発展というより高い目標の実現のためには必要なことだと張するだらう。

 中国指導部の幹部らと最近、話したという人々の話を聞くと、安価な労働力と安価な資本に基づく現状を維持したいと願っている既得権益層を解体するには、王岐山氏(現国家副主席)が主導する腐敗の摘発が不可欠だったと彼らは信じている。
 中国の指導部はまた、自国のエリートたちのやりたい放題に歯止めをかけられなければ米国は衰退すると考えている。

 彼らの考え方には一理ある。というのも米最高裁判所は6月下旬、多くの米国民よりも一部分人にとってだけ有利となる判断を相次いで下した。まず25日に米クレジットカード大手アメリカン・エキスプレスが加盟店に他社のカードを顧客に勧めることを禁じるのは反トラスト法(独禁法)に反しないとの判決を下した。これは独禁法の弱体化につながりかねない。翌26日には、トランプ米大統領によるイスラム圈を中心とする7力国からの入国を制限する措置を支持する判断を下した。そして27日には公立校で働く人から組合費を強制的に徴収することはできないというジャナス判決を下した。これにより米国の多くの労働運動の経済基盤が削り取られることとなった。

 なぜこのような事態に至つたかといえば、それは米国の多くの企業経営者を含む穏健派の共和党支持者らが、トランプ氏に懸念を抱きつつも2016年の大統領選挙で彼を支持したからだ。彼らは、同氏なら当時空席となっていた最高裁判事のポストに親ビジネスの人物を選んでくれるとわかっていたのだ。

 だがトランプ氏の大統領当選は、過去数十年間にわたり米民主党がエリートの富裕層と手を組むという判断をしてきたことへの反動だったとも言える。クリントン政権はウォール街と、オバマ政権はシリコンバレーと近しい関係を築いた。

 民主党への主な献金者や党内の重鎮の多くは、1980年代の「強欲は善」 (編集注、市場経済の下で努力して稼ぐのはよいこと)という精神と、自分たちは議員の資格を持つに値する人物だとのおごりを抱えてきた。だが、これは一般の民主党支持者が最も嫌つている発想だ。

 この点は、6月26日にニューヨーク市で行われた11月の中間選挙の候補者を選言民主党の予備選を見れば分かる。下院ナンバー4のベテラン議員が、雇用保障と国民皆保険の導入を訴える28歳の新人候補者に敗れた。

 米経済界のエリートたちは何10年も、米国の様々な分野で寡占化が進んできたにもかかわらず、そこから人々の目をそらすべく自分たちに都合のいいことばかりをしてきた。米企業は、中国の商慣行が不公正で、知的財産が盗まれていると大声で訴えている。だが彼らは、中国市場で問題に直面するたび、米政府という正式なルートを通じて異議を申し立てるより、中国市場へのアクセスを維持すべく自分たちの主張を引っ込めるのが常だった(知られている事例を2つ挙げよう。米ガラス大手コーニングは2011年に企業秘密を盗まれたとして中国企業を提訴したが後に取り下げたし、米半導体大手クアルコムは15年、独禁法違反を中国当局に指摘された際、9億7500万ドル=約1080億円=に上る和解金の支払いでことを収めた)。

 貿易の専門家で民主党のスタッフも務めたマイケル・ウェッセル氏は「13億人の消費者がいる中国は確かに魅力的市場だ。ただ米企業は、米国の今後の長期的な経済的繁栄を犠牲にして、それほど得られるとも思えない目先の見返りを重視しがちでこれまできた」と指摘する。

 中国と取引していれば何か見返りがあるはすだと考えている欧米の多国籍企業があったら筆者は驚く。中国は、国有企業への支援を縮小するどこらか拡大し、優先的な権限を与えていくと明言している。中国国内だけでなく、中国が地政学的に大きな影響力を持つ地域でもだ。

 しかし、新自由主義者らは楽観的だ。市場はここ数日、ムニューシン米財務長官のような自由貿易推進派がトランプ氏を説得して、中国からの投資に関する規制強化を思いとどまらせたとみて、安堵している。だが米中の対立が一服しているかに見えてもつかの間にすぎない。

 中国の腐敗撲滅が共産党の信頼回復につながるのか、あるいは最終的に党を弱体化させてしまうのか、まだ明かではない。

 しかし、米国にはエリート層が握る権力に歯止めをかけようとする兆しはない。否定する人もいるだろうが、米国の事態はむしろ悪化している。ワシントンに投入されるロビー活動費がこの20年で倍増した事実がそれを示している。

 米国の左派にとっての選択肢はカネもうけにいそしむのか、倫理観を重視するかだ。共和党は、自分たちに理念があるのか問う必要がある。中道は消えていくのではないか。中道が支持を失うに従い、米社会は経済的、政治的に深刻な打撃を受けるだろう。その結果、米国は、地方の白人が牛耳るファシズムか、都市部のミレニアル世代が推進する社会主義のいずれかを選ばなければならない方向に向かう可能性が高い。

 どちらもビンネスに悪影響をもたらすことを投資家は知っている。米債券市場の重要指標であるイールドカーブを見ると、長期と短期の金利差が平たん化している。今後、長期の方が短期より低くなるかもしれない。その場合、米国は景気後退に入ることになるだらう。

(2日付)

 

 

 

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