ペンス副大統領の演説概要
ロボやAI、米知財を略奪/「借金漬け外交」軍事的意図
ペンス米副大統領による対中国政策に関する演説の概要は次の通り
■ 中国は技術移転の強制や国有企業への補助金など自由貿易に反する政策を駆使して世界2位の経済大国に成長した
■ 「中国製造2025」の目標達成のため、米国の知的財産をあらゆる手段を使って取得しようとしている
■ 中国は西太平洋から米国を追い出し、アジアの同盟国への支援を阻止しようとしている
■ 中国は「借金漬け外交」で抑圧を自国の外に広げようとしている
■ 過去の米政権は中国の行動を見逃していたが、そのような日々は終わった
■ 中国は米国の民主主義に干渉し、トランプ氏以外の大統領を望んでいる
■中国に深く失望
ソ連の崩壊後、我々は中国の自由化が避けられないと想定した。楽観主義をもって中国に米国経済への自由なアクセスを与えることに合意し、世界貿易機関(WTO)に加盟させた。中国での自由が経済的だけでなく政治的にも拡大することを期待してきた。しかし、その希望は満たされなかった。北京は「改革開放」とリップサービスを続けるが、ケ小平氏の看板政策も今ではむなしく響く。
経済の自由化が中国を我々と世界とのより大きなパートナーシップに導くことを期待していた。しかし中国は経済的な攻撃をかけることを選び、自らの軍事力を強化した。
中国は世界中で自らの戦略的利益を推進しようとしており、その勢いや洗練度は増している。歴代政権は中国の行動をほとんど無視するか、多くの場合は助けてきた。しかし、そうした日々はもう終わった。
■貿易赤字容認せず
過去17年間で中国の国内総生産(GDP)は9倍に成長し、世界第2の大きな経済となった。この成功の大部分は、米国の中国への投資によってもたらされた。中国共産党は関税、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗など自由で公正な貿易とは相いれない政策をとってきた。昨年の対中貿易赤字は3750億j(約42兆円)で、米国の貿易赤字の半分近くを占める。
トランプ大統領の指示により2500億jの中国製品に追加関税を実施している。最も高い関税は特に中国政府が奪取し、コントロールしようとしている先進産業を対象としている。中国と公正かつ互恵的な合意がなされない限り、我々はさらに(中国製品に)多くの関税を課し、その.(対象品目)数を実質的に2倍以上に増やす可能性がある。
我々は中国が苦しむことを望んでいない。彼らが繁栄することを願っている。しかし米国は中国が自由で公正かつ互恵的な貿易政策を追求することを望んでいる。我が国の経済を開放したのと同様に、中国が貿易障壁を撤廃し、経済を完全に開放することを要求する。
現在、共産党は「中国製造(メード・イン・チャイナ)2025」計画を通じて、ロボット工学、バイオテクノロジー、人工知能など世界の最先端産業の9割を支配することを目指している。中国政府は21世紀の経済の圧倒的なシェアを占めるために、官僚や企業に対し米国の経済的指導力の礎である知的財産をあらゆる手段を用いて取得するよう指示してきた。
中国政府は現在、多くの米国企業に中国で事業を行うための対価として企業秘密を提出することを要求している。中国の安全保障機関は米国の技術の大規模な窃盗の黒幕だ。中国共産党は盗んだ技術を使って民間技術を軍事技術に大規模転用している。
我々は国家安全保障を中国の略奪行為から守るために、対米外国投資委員会(CFIUS)を強化し、米国への中国の投資に対する我々の監視を強めた。米国の知的財産の窃盗が完全にやむまで、中国政府に対して行動を続ける。中国が強制的な技術移転という略奪的な慣行をやめるまで、引き続き断固とした態度をとるだろう。
■覇権奪取「失敗する」
中国はほかの全アジアを合わせたのと同じくらいの軍事費を投じ、米国の陸、海、空、宇常における軍事的優位を脅かす能力の獲得を第一目模としている。中国は米国を西太平洋から追い出し、米国が同盟国を救援に訪れるのを阻止しようとしている。しかし、彼らは失敗するだろう。
中国の船舶が、日本の施政下にある尖閣諸島周辺を定期的に巡回している。南シナ海で「航行の自由作戦」を実施していた米海軍のイージス駆逐艦は45ヤード以内まで中国海軍の艦艇に異常接近され、衝突回避の操縦を強いられる事態となった。ただ、米海軍は国益が要求するところであればどこでも作戦行動を続ける。
我々は威圧されたり撤退したりすることはない。インド太平洋全域で米国の利益を主張し続ける。「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを前進させるために、インドからサモアに至るまで、地域全体で価値観を共有する国々との闇に強固な紳を築いていく。
■市民に「迫害の波」
ここ数年、中国は自国民に対して統制と抑圧に向けた急激な転換をした。中国は他に類を見ない監視国家を築き、時に米国の技術の助けを借りてより攻撃的になっている。「グレートファイアウォール」 (中国のインターネット検閲システム)の壁は高くなり、中国の人々が自由な情報に接するのを大幅に制限している。
中国のキリスト教徒、仏教徒、イスラム教徒に対する新たな迫害の波が押し寄せている。新彊ウイグル自治区では政府の収容所に100万人ものイスラム教徒のウイグル族を投獄し思想改造を行っている。
中国は「借金漬け外交」を利用してその影響を拡大している。中国は、アジアやアフリカなどのインフラ建設に数千億jもの資金置換供している。しかし、これらの融資条件は不透明だ。スリランカは商業的価値があるかどうか疑問の余地のある港を中国の国有企業が建設するために巨額の負債を負った。支払いの余裕がなくなると、中国政府はスリランカにその新しい港を引き渡すよう圧力をかけた。それは中国海軍の将来的な軍事基地になるかもしれない。
中国共産党は昨年から中南米3カ国に台湾との関係を断ち切り、中国を承認するよう説得している。これらの行動は台湾海峡の安定を脅かす。民主主義を奉じる台湾は、全中国人にとってより良い道を示すと米国は常に信じている。
■中国はトランプ政権打倒を目指す
中国政府はトランプ大統領の強硬な姿勢を受けて、包括的かつ組織的なキャンペーンを展開し、大統領への支持を損ねている。中国は米国の国内政策と米国の政治に干渉するための取り組みを強めている。そのために米国企業、映画会社、大学、シンクタンク、記者、州、連邦当局者に見返りの報酬を与えたり、支配したりしている。
中国は18年の(中間)選挙や20年の大統領選に向けた政治情勢に影響を与えようとす量刑例のない取り組みを始めている。中国は別の米大統領を望んでいるのだ。
米情報機関は「中国は政治的影響力を高めるために、貿易関税のような(国論を)分裂させる問題を利用している」と述べている。中国政府は、米国人の対申政策認識を変えるために、秘密工作員や偽装組織を動員し、プロパガンダ放送を流している。米情報機関の上級幹部が私に語ったところによると、中国が米国内でやっていることに比べれぱロシア人が行っていることはたいしたことではない。
■米通商政策の転換へ企にも働きかけ
中国政府高官もトランプ政権の通商措置を非難するよう米国のビジネスリーダーに働きかけている。米国の大企業が米国政府の政策に反対する発言をしなければ、中国は(同国での)事業許可を認めないと脅した例もある。
これまでに(米国の追加関税措置を受けて)中国が課した(対抗)関税は、中間選挙で重要な役割を果たす産業と州を特に対象としていた。ある推計によると、中国が標的とした米国の郡の8割以上が16年にはトランプ大統領と私に(多く)投票した。現在、中国はこれらの有権者を我々に反対させようとしている。
中国は米国の有権者にも直接訴えている。先週、中国政府は庭中米国大便の故郷の州の地元紙デモイン・レジスターにPR記事を掲載するための代金を支払った。この州は、中間選挙と大統領選に重要な州だ。PR記事は(通常の)ニュース記事のように見えるようにデザインされており、我々の貿易政策を州の人にとって有害であるとしている。
米国の政治・政策に対する中国政府の悪意ある影響力と干渉については、米国中に新しいコンセンサスが生まれている。多くの企業家が知的財産権の放棄や中国の抑圧の助長につながる形での中国市場への参入をためらっている。しかし、もっと多くの人が続かねばならない。例えば共産党による検閲を強化し、中国の顧客のプライバシーを侵害するアプリの開発を米グーグルは直ちに終了すべきだ。
■「改革開放」に回帰を
トランプ大統領は、共に成長する中国との建設的な関係を望んでいることを明確にした。中国はこのビジョンからさらに遠ざかっているが、中国の為政者が方
針を変更し、数十年前の米中関係の始まりを特徴づけた改革と開放の精神にまだ戻ることはできる。
米国は中国に手を差し伸べている。そして、中国政府がすぐに米国に対する新たな敬意をもって言葉ではなく行動してくれることを望んでいる。中国との関係において公平、相互、そして主権の尊重が基礎となるまで、我々が態度を弱めることはない。
(テーマごとに再構成)
中国周辺外交で対抗
中国人民大学教授 時股弘氏
あらゆる分野で中国を非難したペンス米副大統領の演説は、中国に対抗していく意思を鮮明にした。(中間選挙を前にした)米国政治をにらんだ面はあるが、中米間の摩擦がエスカレートする現状を反映しているのも事実だ。中国は演説には極めて不満で、ひどく怒っている。総合的な方法で対応しようとしている。
具体的には中国の市場開放や経済構造改革を加速させ、日中韓の自由貿易協定(FTA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結を急ぐ。日本を含む周辺国との関係改善を進める。さらに中国の技術革新を強化する。国内経済の下押し圧力が強いなか、中国が今採っている措置で十分か見極める必要がある。
演説は「新冷戦の始まりと指摘されるが、米ソ冷戦と今の中米対立には相違点がある。中国はすでに経済発展に成功しており、国際社会と経済的なつながりがある。中国の対外関係は、閉鎖的だった冷戦時代の旧ソ連とは大きく異なる。
一方、似ている部分もある。単なる二大強国間の競争ではなく、国際秩序やイデオロギーに及ぶ点だ。中米摩擦が今後、米ソ冷戦と似たような方向へ進むのか、それとも別の展開になるのか注視している。
米、中国と敵対辞さず
ブルッキングス研究所フェロー ライアン・ハース氏
ペンス米副大統領の演説は米国内向けだ。目的は2つ。中国と敵対的な関係になることへの理論武装と、中国の米選挙への介入を公に説くことだ。
演説は米政権の懸念が貿易に限らず、安全保障や人権、イデオロギーや対外援助に及ぶという強力な通告を中国に伝えた。
副大統領は米国が中国と敵対するのは平気だと言いたいようだ。中国が平気と思わないなら米国側の懸念を解消せよ、というわけだが、中国が近い将来に要求に応じることはないだろう。
米中関係は予見可能な将来まで緊張が強まった状態が続く。双方とも意志の強さが試され、妥協は弱さとみなされる。米中首脳は相手への影響力を互いに自負している。
トランプ政権は過去の政権と共通した問題に対し、より一方的な解決を目指している。異色の大統領の政治スタイルと、外交的な解決では結果が出ないという判断の産物だ。
中国はトランプ大統領本人への批判を避けつつ、演説の内容を批判している。大統領はぎくしゃくした敵対関係を望まないと判断しているようだ。トランプ氏が将来、事態の沈静に動く余地を残す意図がある。
「新冷戦」排除できず
MIT国際研究センター シニアフェロー 岡本行夫氏
ペンス米副大統領の厳しい中国批判は「今の中国とは一緒にやっていけない」という明確な意思表示だ。米国の対中政策の転換点であることは間違いない。これまで米国は中国の姿勢変化を促すアプローチをとってきたが、今回は対決色を前面に出した。今後は政治・経済・安全保障の全ての面で中国に厳しい態度で臨み、東アジアの地政学的な緊張が高まるだろう。
中国への不備は米政府や議会、ビジネス界で長年蓄積されてきた。ブッシュ、オバマ両政権の16年間、米国が中国の攻勢に正面から向き合わなかった間に、中国が将来の世界覇権を狙って権益を拡大してきたからだ。長期的な米中の覇権争いの激化は避けられない。
日本にも影響は及ぶ。新しい米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)には市場経済でない国との自由貿易協議を制限するいわゆる「中国条項」が盛り込まれた。米国側は日米物品貿易協定(TAG)にも「中国条項」の挿入を要求してくるだろう。
現時点ではまだ中国がどう出てくるか不明であり、米中の緊張状態が「新冷戦」に発展するかどうかはあと1年くらいしないと判断できないが、そうなる可能性は排除できない。