SNS時代、正確さが価値

 


混沌の場に確かな報道

 

 

 スマートフォンでニュースを知り、映画をみる時代である。半面、地震や台風などの災害時に、交流サイト(SNS)などを通じてデマが拡散する例も相次いでいる。安全で自由な社会は正確な情報の共有が前提だ。言論機関にはデジタル空間でも確かな報道を担う責任がある。

 「デマは事実よりも非常に速く、多くの人に広がる」。3月の米サイエンス誌はこんな研究成果を掲載した。米マサチューセッツ工科大の研究チームが2006〜17年のツイックーの英文投稿を分析したものだ。嘘情報が1500人に拡散するまでの速さは正しい情報の6倍。情報の奇抜さが拡散の一因という。

 日本でも11年3月の東日本大震災以来、災害時に何度となくデマがネット上で拡散した。今年も6月の大阪北部地震では「外国人が犯罪をする」とか、9月の北海道地震でも「地鳴りがするからまた地震がある」という嘘が広がった。

 SNSやショートメッセージは、受け取った情報について真偽の確認なしに簡単に拡散できる。いつもなら眉唾の話でも、災害で混乱した状況だと真に受けやすい。

 災害時のデマだけではない。海外ではSNSなどを使って世論操作をしたり選挙に介入したりする動きが出ており、大きな問題になっている。

 トランプ米大統領にまつわるロシアゲート疑惑の一つは、16年の大統領選の時にライバルである民主党陣営に対してロシアがフェイク(嘘)ニュースによる中傷攻撃を展開したことだった。

 3月に米ブルッキングス研究所が発表したリポートによると、ロシアの介入は翌年のフランスの大統領選やスペインのカタルーニャ独立投票などにも及んでいた。フェイクニュースの拡散やサイバー攻撃などによって「世論の分裂を誘い、民主的な社会の基盤を転覆させるのが目的だ」という。

 7月末のカンボジアの総選挙でも同様の動きが見られた。米サイバーセキュリティー企業ファイア・アイによると、中国当局の関与が疑われるサイバー攻撃が野党側の関係者らに行われたのだ。

 選挙を前にした世論操縦では、ビッグデータ分析などを通じて特定の考えを持つグループを抽出し、働きかける手法が使われる。最新のマーケティング技術の応用だ。

 ひそかにテロの扇動が行われたら――。欧州連合(EU)の欧州委員会は、テロ行為をあおる画像や文書、音声をネット上から排除するため、ネット関連企業への制裁金などを検討している。デジタル空間は、自由な社会を守るうえで、監視が必要な舞台になっている。

 受け手の方は意外に無防備だ。スマホが登場してほぼ10年だが、この間に一人ひとりを取り巻くデジタル空間が驚くほど変わったのに、あまり自覚されていない。
 イタリアIMTルッカ高等研究所のクアトロチョッキ氏は「ウェブは集合知をもたらすという見方がある一方で、エコーチェンバー(共鳴箱)を生み出す原動力になっている」(別冊日経サイエンス224号)という。

 同氏の研究グループは科学ニュースを読む人々と、陰謀論をフォローする人々の行動を比較した。フェイスブックの陰謀論のページと科学ニュースのページを調べると、それぞれの読者はほとんど交わらなかった。

 むしろ特定の話題に頻繁に接する人は、フェイスブックの友達のニュースの嗜好もほぼ同じになることが確認されたという。

 さらに陰謀論を好む人たちがその虚偽を暴露する話に接すると、逆に陰謀論を読み流ける確率が30%も高まったという。自分の聞きたいこと、読みたいことにしか関心がなくなる「確証バイアス」がみてとれる。

 日本ではニュースはどのように受け入れられているのだろうか。

 デロイトトーマツが9月に発表したデジタルメディア利用実態調査は、ニュース情報を得る手段で最も頻繁に使っているものを聞いている。

 テレビが1位というのは各世代共通だが、2位は世代で大きく異なる。14〜20歳と21〜27歳はソーシャルメディアで、71歳以上は紙の新聞だ。

 その間の世代はヤフーニュースなどの「アグリゲ一夕ー」が2位。日経電子版のようなオンライン版の新聞は30歳前後で5%にシェアを高めている。

 ソーシャルメディアのニュースの信頼性を10代〜30代半ばに聞くと6割前後が「フェイクニュトスの懸念がある」と回答。有料のオンラインニュースを認める声はまだ少数だが、容認する理由に「ブランドを信頼し自分に合っていると思うから」という信頼性を重視する姿勢がみえる。

 新聞など伝統メディアもデジタル化しないと、新しい読者をつかまえられない。確かな事実を伝え、多様な見方を提供するという役割は、デジタル空間が混沌としているからこそ、さらに重要だといえるだろう。

 

 

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