育む



心が苦しい時どうする?

 

抱えずに3人の大人に相談



困った時は身近な大人に相談して――。子供に「SOS」の出し方を教える授業が始まっている。苦しい立場に置かれている子供は、自ら声を上げるのをためらいがち。悩みごとにいち早く手をさしのべる狙いがあり、国は自殺対策の一環として普及を後押しする。教育関係者は「助けてくれる大人は必ずいる。勇気を出して声を上げてほしい」と話す。


「自分をたいせつにしよう」の授業

 「皆はつらい気持ちの時にどうする?」。6月下旬、東京都板衛区立上板橋第二中学校の1年のクラスで、生徒らがストレスの解消方法と困っている友達への接し方をプリントに書き込み、数人のグループの中で発表した。

 都内の小中高、特別支援学校で2018年度から始まった「自分を大切にしよう」と題した授業。自分の考えを言葉にまとめることについて、教材のDVDが「自分を客観視できる」 「思いが整理され、心の苦しさが軽くなる」などの効果があると説明し、困った時に「少しだけ勇気を出し、3人の大人に話そう」と勧める。「3人」としたのはSOSが見過ごされないようにするため。1年の男子生徒(12)は「悩みは抱え込まないようにしたい」と感想を話した。

 この授業は、l7年7月に閣議決定された「自殺総合対策大綱」が子供向けの教育を重点課題に挙げたことから、東京都教育委員会が企画。子供を過剰に刺激しないよう、「自殺」 「死」などの単語はあえて使わない。都教委の担当者は「子供が理解しやすい身近なテーマから、信頼できる大人に助けを求めることの重要さを伝えるようにした」と話す。

 足立区が09年から実施してきた同じテーマを取り扱う授業が、都教委の取り組みのべトスになっている。同区は06年に大人を含めた自殺者数が23区でワーストに陥り、08年から独自の自殺対策を進めてきた。

 ただ、子供へのメッセージの伝え方は慎重さも求められる。以前、同区内での別の授業で、子供に赤ちゃんを抱っこさせ、子育て中の保護者から話を聞くということがあった際、女子生徒が突然泣き出した。「育児は大変だけど夫婦2人で頑張っている」と聞いた直後、「自分はこんなに大切にされなかった」と感じたのが理由だった。

 自殺対策を統括する馬場優子・こころとからだの健康づくり課長は「大人が想定していなかった捉え方をされ、対応の難しさを実感した」と振り返る。区は精神科医に意見を求めるなどして、授業で「赤ちゃんのころからここまで生き抜いてきた皆さん一人ひとりはそれぞれ、とても大切な存在です」と呼びかけるようにした。

 校内の授業だけでは不登校の児童や生徒にメッセージツが届かないことから、足立区は保護者を通じ、いじめや家庭内暴力の相談先を載せたカードを配布。18年度からは、区内で検索エンジンのグーグルを使って「死にたい」「絶l望」など自殺に関連するとみられる約330単語を検索した時に相談窓口の広告が出るようにした。

 馬場課長は相談を受ける大人に「告白に耳を傾け、気持ちを受け止めてほしい。助言の際はむやみに経験談を語らず、相手に寄り添って」と呼びかける。

 北海道教育大学教職大学院の井門正乗院長(学校数青学)は取り組みを評価しつつ、「たとえば自殺の危険性が高まるとされる夏休み明けなど、年数回はSOSの出し方を復習してほしい」と学校現場に求める。その上で「特別な授業にとどまらず、学校教育全体で命の大切さを伝え、自殺対策を講じる必要がある」と指摘する。

 



若年層の自殺7ヵ国で最悪

 

 

 2018年版自殺対策白書は、人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率(15〜34歳)について、先進7カ国のデータを比敬した。日本は最悪の17.8(14年)。事故による死亡率の約2.6倍に上り、7ヵ国で唯一、死因の1位が自殺だ。国内全体の自殺死亡率は10年ごろから減少傾向だが、10歳代以下は横ばいが続く。

 最近はSNS(交流サイト)への投稿を通じて、自殺志願者同士が集まるケースが問題となっている。神奈川県座間市のアパートで17年10月、9人の遺体が見つかった事件ではSNSなどに自殺願望を投稿した若者が犠牲になった。

 政府は同年12月、SNSなどの事業者に自殺を誘う情報の自主的な削除を求める再発防止策をまとめるなど、対策を進めている。

 

 

 

もどる