伊の総選挙 EU不信噴出

 

緊縮策「押し付け」反既存体制、統合揺るがす


今月4日のイタリア総選挙は、欧州でなおポピュリスム(大衆迎合主義)が勢いを保ち、政治・経済の安定に影響を及ぼす可能性が高いことを示した。わき上がった既存体制への反感は、欧州連合(EU)の枠組みそのものにも向かった。EU第4の経済大国イタリアは今後、EUとどう向き合うのか。連立協議の行方次第では、、英国のEU離脱で不安定化する欧州の統合をさらに揺るがしかねない。


ポピュリスム旋風再び

 

想定外の強風

 4日の選挙結果は、大方の予想を上回る「ポピュリスム旋風の再来」と受け止められた。強風を吹かせたのは、二つの政党だ。

 上下院共に単独で得票率第1党となったのは、既存政治の打破を訴える「五つ星運動」で、下院では約33%(開票率99%)を獲得した。

 さらに、移民排斥や「脱ユーロ」など、国家主義的、右翼的な主張を掲げる「同盟」も、予想から約5ポイント伸ばし、下院で約17%(同)を得た。

 下馬評では、5度目の政権作りを目指すベルルスコーニ元首相率いる「フォルツア・イタリア(FI)」など中道右派連合が優勢で、選挙後の連立協議は同氏らが軸、との見方が人勢だった。

 だが、有権者の多くは、FIや、与党・民主党に拒否反応を示した。伊内外の欧州メディアは「英EU離脱の国民投票以来の欧州激震」 (英紙フィナンシャルータイムズ)と衝撃をあらわにした。

 五つ星の若きりーダー、ルイジ・ディマイオ氏(31)は、「ついにイタリア国民(が主権)の共和国になる」と勝利宣言した。

 

危機の最前線

 欧州は、2008年の金融危機に続き、09年のギリシャ発のユーロ危機、15年以降はアフリカやシリアから流入する難民問題に苦しんできた。

 特に、イタリアは失業率が約11%と高止まりし、難民は過去4年で約62万人が流入したとの数字もある。

 「経済的、地理的に最前線で荒波をかぶったのがイタリア。『その時、EUは頼りにならず、我々は見捨てられた』という不信が今回、一気に噴出した」。欧州改革センターのルイジ・スカッツィエリ研究員は、こう解説する。

 欧州議会の昨年10月の調査によると、「EU加盟国であることで、自分の国は得しているか」との問いに、「はい」と答えたイタリア国民は、全28加盟国の中で最下位の39%だった。


与党衰退

 対EU関係のあり方は、欧州各国の国政選挙で重要な論点となり、時に政権の安定も左右する。ローマ社会科学国際自由人学のロレンツォ・デシオ教授は、11年のベルルスコーニ氏の退陣について、「ユー口危機に際し、EUに公約した財政健全化を果たせなかったため、大国ドイツを中心としたEUが辞任圧力をかけた」と指摘する。

 今回の選挙で表れたのは、こうした「既存体制」ともいえるEUの緊縮政策”押し付け”に対する反発でもあった。右翼の「同盟」は「脱ユーロ」を掲げて支持を広げた。逆に、欧州統合に積極的な与党・民主党は衰退した。

 五つ星も当初は「脱ユーロ」を掲げたが、ディマイオ氏は軌道修正しつつある。同氏は選挙後、「我々はきちんと統治できる。(EU本部のある)ブリュッセルの皆さんもご心配なく」と語った。党内には結党時からの欧州懐疑派も多く、不安要素はある。


両翼が台頭

 五つ星運動の躍進について、デシオ教授は「厳密には、典型的ポピュリスムというより、反エスタブリッシュメント(既存体制)の側面が強い」と指摘する。

 欧州では今、@移民排斥など国家主義的な主張をする右翼AEUの緊縮政策に反対し、生活の平等のために国家予算膨張も辞さない左翼――といった両翼のポピュリスムが各地で台頭している。

 教授は、「ポピュリスムは、問題を単純化して人々の怒りをあおり、実現不可能な公約をする。移民排斥を訴える『同盟』は、反難民を掲げる『ドイツのための選択肢(AfD)』や、フランスの『国民連合(旧国民戦線)』に近い極右ポピュリズムだ。一方、五つ星は、EUと話し合う姿勢も見せている。スペインの『ポデモス』のような左翼政党とは分けて見る必要がある」と分析する。



二つの変数

 欧州でポピュリスムが台頭する要因は何だろうか。

 スカッツィエリ研究員は、「変数が二つある。@経済の強弱A社会文化の変動に対する懸念の強弱――の要素だ。経済的に安定し、国家のアイデンディティーがしっかりした国では、ポピュリスムは生まれにくい」と話す。

 「中・東欧は民主主義の歴史が浅い国が多く、比較的に経済規模も小さいため、ポーランドやハンガリーのようにポピュリスムが生まれやすい。イタリアは経済規模は大きいが低迷し、移民問題にも直面し、二つの変数が動いた」 イタリアは、EUの前身、欧州共同体(EC)の創立6か国の一つだ。一昔前までは対EUの好感度も高かった。

 その国は今、第1党となった五つ星運動が連立政権作りの主導権を握る。交渉は新議会招集の23日が正式スタートだが、難航が予想される。

 仮に、五つ星が「脱ユーロ」の「同盟」と連立を組む事態になれば、EUの不安定化だけでなく、経済への悪影響も避けられない。

 EU側も、硬直的で厳しい緊縮策一辺倒でなく、成長が望める柔軟な政策をイタリア側と模索すべきだろう。

五つ星運動 

既得権益、既存政治の打破を主張するイタリアの新興政党。人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏が2009年、企業家と共にインターネット上の政治運動から結党。経済弱者の救済なども掲げ、欧州のポピュリズム政党の代表例とみなされる。親ロシア政策をとる。五つ星は、党がこだわる五つの理念(水資源、間発、持続可能な交通、インターネット社会、環境主義)を指す。

 

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