世論調査考
安倍内閣
強さともろさ
しぼむ「わからない」層
前提崩れる「青木の法則」
日本凝済新聞社の22〜24日の世論調査で安倍内閣の支持率は52%に上昇した。支持と不支持のどちらの回答も示さない「いえない・わからない」層は6%にしぼむ。5割の支持率があっても不支持率は42%で、内閣の基盤はもろさもはらむ。自民党と内閣の支持率が合計50を下回ると政権は退陣に追い込まれると政官界で呼ばれる「青木の法則」は崩れつつある。
「わからない」と答えた割合は2012年末の第2次内閣発足時の10%前後から上昇し16年l月に19%に達した。その後は低下に転じ、今年は5月に5%、6月に6%と1桁台で推移している。
調査対象の抽出手法などが変わり単純比較はできないが「わからない」層は日経が電話調査を始めた1987年以降で最低の水準だ。竹下内閣の発足直後の87年12月は「わからない」が41%。89〜91年の海部内閣は平均24%、91〜93年の宮沢内閣は22%など、昔は20%台が当たり前だった。
瞬時に賛否回答
00年代に入ると「わからない」は10%台が多くなる。01年発足の小泉内閣は平均14%。第2次安倍内閣以降の5年半は11%とさらに下回る。埼玉大の松本正生教授(政治意識論)は「インターネットの普及など情報環境が変化し、最近の有権者は質問の賛否を瞬時に答える傾向が強い。『わからない』が減ると支持率の安定水準は変わる」と分析する。
「わからない」20%を前提にすると、支持率が30%を切った時に不支持率が50%を超す。よく支持率が30%を割ると危険水域といわれる理由だ。だが「わからない」が10%だと、支持率40%で一見安定していそうでも、不支持率は50%を超えていることになる。
自民党と内閣の支持率を足す「青木率」も前提がずれてくる。統計的な意味はなく、直感的な経験則として使われてきたが、いまは通用しない可能性がある。
不支持率は注目
6月の自民党支持率44%と内閣支持率52%の和は96で「青木の法則」に従えば安定政権だ。だが、内閣不支持率は5月が53%、6月が42%。不支持率50%前後とは1人を選ぶ選挙で不支持層が1人の候補を推せば与党候補を倒せることを意味する。来年夏の参院選で与党が勝利できるかは予断を許さない。
▼青木の法則 内閣支持率と自民党支持率の和が50を下回ると政権を維持できず、退陣に追い込まれるという経験則。「参院のドン」と呼ばれた元自民党参院議員会長の青木幹雄氏が唱えた。
支持層 経済や外交を評価
不支持層 首相に不信感強く
日本経済新聞社の世論調査によると第2次安倍内閣以降、支持率が30%台になったのは2回。安全保障関連法の審議をしていた2015年7月と自民党が大敗した都議選直後の17年7月だけだ。離れない支持層が約3割あることが推測できる。
支持の根源として考えられるのが経済政策への評価だ。第2次内閣以降で最低の支持率になった15年7月の調査で内閣を支持し、かつアベノミクスを評価した人は全体の25%。安保法の審議がヤマ場を迎え、政権批判が高まるなかでも、経済政策への評価から支持にとどまる人が一定の割合いることがうかがえる。
第2の要因は外交・安全保障政策だ。14年5月、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するかを聞いた質問で内閣を支持し、かつ集団的自衛権に賛成の人は全体の23%だった。1年後の15年6月もこの層は全体の22%とほぼ変わらない。首相の安保政策に共鳴する強い支持層が2割程度いることがわかる。
不支持率は17年初は20%台と低水準だったが、都議選直後の同年7月に52%まで高まり、その後は最も下がった時でも18年2月の36%。政権に追い風が吹いても支持に回りにくい不支持層が3〜4割あるとみられる。
17年以降は首相個人への不信感が、不支持率が下がりにくい一因になっている。17年7月の支持率急落から一息ついた同年11月上旬段階でも「内閣不支持、かつ首相を信頼できない」と答えた人が全体の32%だった。3割は首相への不信感から不支持にとどまっていたことになる。
支持率の水準
質問方法で差
報道各社、傾向は一致
日本経済新聞社の22〜24日の世論調査では4ヵ月ぶりに支持率が不支持率を上回った。同じ週末の23〜24日に実施した毎日新野の世論調査では内閣支持率が36%、不支持率が40%で、なお不支持率の方が高い。
結果の差は質問の仕方が一因とみられる。日経は内閣を支持するか、しないかの2択だがへ毎日は「支持する」「支持しない」「関心がない」の3択で聞く。23〜24日の調査で「関心がない」は22%を占めた。
3〜5月の3回の調査で「関心がない」は20%前後。不支持率は日経より2〜5ポイント低い程度だが、支持率は10ポイント前後低い。無関心層は2択を迫られると支持に回る人が多い可能性がある。
さらに日経は「いえない・わからない」と答えた人に「お気持ちに近いのは」と重ね聞きする。2回聞くので支持率、不支持率ともに1回のみ聞く調査より高めに出る。
読売新聞や共同通信の1週間前の調査でも支持率が不支持率をわずかに上回った。支持率の水準は違うが、6月中旬以降に支持率が上昇したという傾向は多くの報道機関で一致する。