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揺れる安倍内閣の支持率
論説フェロー 芹川 洋一
春先に大きく落ちこんだ安倍晋三内閣の支持率がどうやら下げ止まったようだ。本社調査では、2月に56%だったのが3月に42%まで下落したあと、4月43%、5月42%と踏みとどまっている。
この数ヵ月を振りかえってみると、支持層低下のきっかけは、森友文書の改ざん、加計学園の獣医学部の新設、藤田淳一前財務次官のセクハラなど新聞・テレビ・週刊誌の報道だった。その一方でなお40%台の内閣支持率を考えると、下支えをしている堅い層があるに違いない。
仮説を立ててデータを点検することで、安倍内閣の支持率を考えてみた。
検証する材料を得るため、テレビの番組とCMを調査分析しているエム・データ社に協力を依額した。ニュース・報道系とワイドショー・情報系で、森友、加計、福田前次官の問題をどのくらい放映していたか、1月7日から5月13日まで各局合計の放送時間を日ごとに調べてもらった。週刊誌の情報がどんなふうにテレビの番組で引用されていたのかのチェックも頼んだ。
本社の世論調査を担当している日経リサーチには、男女別に各年代の内閣支持率をはじいてもらった。
それらのデータを重ね合わせることで何がいえるのか。『日本政治とメディア』などの著書のある逢坂巌・駒沢大准教授の教示をあおいだ。
第1の仮説は、なぜ女性とシニアで安倍内閣の支持率が低いのか、その要因はテレビのワイドショーにあるのではないか、というものだ。
主婦やシニア男性は家庭でテレビを見る時間が長くなる。朝から夕方まで民放各局が流すワイドショーは政治を見せ物として取り上げる。
森友や加計の問題は不明・不可解な点がある。ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくるのではないかとの推測だ。エム・データの調べによると、森友問題の放送時間は全体で256時間29分。そのうちワイドショー系が146時間57分にのぽる。全体の57%だ。ワイドショー中心の情報の流れだった。
いちばん過熱したのは、ハ国会で佐川宣寿・前国税庁長官の証人喚問があった3月27白。なんと合計で18時間27分も流していた。次は佐川氏が国税庁長官を辞任した直後の3月12日で、12時間49分だ。
2月から3月にかけて内閣支持率の急落がはっきりあらわれた年代は、男性は60代で、60%から35%へと25ポイントも下がった。女性の場合は20〜30代で、59%から33m%へと26ポイント、大幅にダウンした。
女性の60代は2、3月とも変化がなく38%だが、5月には18%まで落ちた。この世代は「内助の功」の意識が強いだけに、安倍夫妻離れに拍車がかかっているとみられる。
福田前次官のセクハラ問題が新たに出てきた4月は3月に比べるとワイドショーで取り上げる時間は短くなった。女性の支持率は20〜30代で33%から45%に回復、全体でも34%から39%へと上向いた。
自民党でメディア戦略を担当している平井卓也広報本部長は「支持率に反応するのはストレートニュースではなくワイドショーだ。悪い話は早く消費してもらうしかない」と語る。ワイドショーが女性・シニア層の支持率の変動要因になっているとみるのは的外れではあるまい。
第2の仮説は、内閣支持を下支えしているのが20〜30代の男性で、ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きいためではないか、というものだ。
3月の支持率は男性の平均が49%で、うち20〜30代は65%と押し上げる力になった。前月比の下落幅は14ポイントだが、同年代の女性の26ポイントに比べると小さい。ワイドショーをはじめとするテレビへの反応は相対的に弱いとみていい。
この世代は情報収集でネットへの依存度が高いのが特徴だ。公益財団法人・新聞通信調査会が2017年11月に実施したメディアに関する全国世論調査によると、20代・30代で「情報源として欠かせない」メディアとしてネットを、あげる人がともに78%にのぼり、他のメディアを大きく引き離している。自らの選好によりネット空間で情報を入手している様子がみてとれる。
どうもここが内閣支持の下支えをしている岩盤だ。本社調査の安倍内閣支持率の最低は38%。安倍内閣の38度線を守っているのはネット世代の20〜30代の男性のようだ。
もうひとつ、週刊誌報道は新聞やテレビで取り上げられた時点で、いわゆる「週刊誌情報」ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす、ということも今回はっき匂わかった。
かっこうの素材を提供したのが、週刊新潮の報じた福田前次官のセクハラ問題だ。エム・データの調べによると、発売日前日の4月11日からの1カ月間で、NHKと民放テレビ各社は「一部週刊誌」という表現を含めて、ニュースとワイドショーで計435回も週刊新潮の報道に言及している。辞任を表明した翌日の19日は80回登場した。
週刊誌に情報を持ち込んだのがテレビ朝日の記者で、週刊誌の報道が新聞、テレビ、ネットの各メディアによって拡散し、大きな流れができあがった点こそ今日的な状況だ。政治のプレーヤーとしてのメディアがここにくっきりと姿をあらわしている。
自戒をこめてだが、それだけにメディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められるということだろう。