文化
内向き日本に危機感
カンヌ最高賞の是枝監督
新作はフランスで
是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞した。日本映画としては21年ぶりの快挙だ。カンヌで得たもの、世界にあって日本にないものは何なのか。帰国した是枝さんに聞いた。
是枝さんはかねがね「映画祭は映画の豊かさとは何かを考える場だ」と語っていた。今回は何を考えたのか。
審査員長のケイト・ブランシェットさんが閉会式の冒頭で「インビジブル・ピープル(見えない人々)に光を当てた映画が多かった」と口にした時、自分の作品もそうだと思った。「万引き家族」は社会から排除され、取り残された人たちが、不可視の状態でそこにいる。発見された時には犯罪者としてしか扱われない。「誰も知らない」の子供たちもそうだった。
そのことが彼女の「インビジブル」という言葉を聞いて、自分の中で言語化された。それまでは言葉にできていなかった。あの映画祭はそういうことがよくある。
「誰も知らない」を出品した2004年は外国の記者に「あなたは『死と記憶の作家』と言われる違うと思う。『後に残された人』をずっと撮っている」と指摘された。外から与えられた言葉で、自分の作家としてのスタンスがクリアに見える瞬間がある。有り難い。
今回驚いたのは中国の若い映画人や批評家たちが押し寄せていたことだ。彼らが作ったコンペの星取表が出回り、僕にも意欲的に取材に来た。
中国パビリオンでは若い映画人を集めたマスタークラスやシンポジウムが連日開かれていた。ジャ・ジャンクー監督と僕も招かれた。若手監督が30人くらい参加していて、彼らの映像も見たが、チャン・ツィイーや金城武のようなスターが出ていて、お金もかけている。新しい作家がここから出てくると思った。中国は次世代を担う若手にあの映画祭を経験させるという意志を明快に示している。やばいぞそ、日本はアジアの孤児になる、という危機感も残った。
富田克也さん、深田晃司さん、濱口竜介さんら、作れて、書けて、語れる才能は出てきた。でも、もっと多くの人に海外に出て行ってほしい。日本の若者は海外に意識が向いてないと思う。最近ロサンゼルスやニューヨークの映画学校で監莱をしたが、いま日本人の学生はほとんどいない。中国人と韓国人ばかりだ。
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日本は「映画を文化としてとらえる素地が欠けている」という。
映画にはビジネスや芸能など色々な要素がわい雑に入り込んでいて、だからこそ面白い。でも欧州の映画祭で向こうの映
画人と話していて感じる映画の豊かさを、日本で感じるのは難しい。日本に帰ると、カンヌをワイドショーのネタとしてしか考えていない人がいますよね……。映画を語る言葉が成熟していない。
カンヌはみな真剣勝負だ。作り手も書き手む気を抜くと信用を失う。賞を決める審査員、作品を選ぶ映画祭事務局も批判にさらされる。4者入り乱れた真剣勝負になるのは、誰もが映画を大事にしているからだ。あの場に身を置くことで鍛えられる。若い人に経験させたいから、今回は(自身の制作集団)分福の若手も連れて行った。
若い作家を育てるにはちゃんと文化助成の予算を確保すべきだ。ただ映画が国に何をしてくれるかという発想でしか文化を捉えられない人たちが中心にいる今のこの国の状況では、国益にかなう作品に金を出すという発
想にしかならない。日本のコンテンツを外国に売り込むという発想しかない。それでは意味がない。
業界全体で若手を育てるため、フランスのように興行収入の何パーセン卜かを製作の助成に回してほしい。それをやらないと文化としての映画はどんどん細くなる。移民も含めたフランスの映画人がすごいと思うのは、自分たちが映画文化を担うというプライドと気概が明快にあることだ。アジアの若い作家がフランスの資金を獲得しようとするのも、フランスの制度がオープンだからだ。
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是枝さん自身もフランスで新作を撮ることを考えている。
まだ正式に発表できないが、準備はしている。11年にジュリエット・ピノシュさんが来日した時に、一緒に映画を撮らないかと誘ってくれた。フランス人と米国人が出てくるが、基本的にフランス語映画だ。監督・脚本・編集の僕一人がフランスに行き、向こうのスタッフと撮ることになる。
「万引き家族」で一区切りという意識があったので、これから何年かは外国で撮ってみようと思う。言語の違いを越えて、どれくらい演出できるのか試してみたい。
新しい環境で作ることになる。契約書も資金調達もスタッフワークも違う。いかに日本が特殊であったかを目の当たりにしている。世界のスタンダードの中で、自分の演出がどう変わっていくのか。今はテレビディレクターのように興味深く見ている。オーディションもしたが、フランスの役者の素養はすごい。
ゆくゆくは満州(現中国東北部)を舞台にした映画を作りたいと思っている。満州映画協会の話だ。お金がかかるし、日本の国内だけでは集まらない。そこにたどり着くまでに、次はどうするか、次の次はどうするか、ちゃんと考えないといけない。体力のある50代のうちにやりたい。
日本の国内マーケットは細くなるし、多様性も欠けている。自覚的な作り手は海外に出て行くと思う。そうすることで、若い人の未来像も多様化していくのかなと思う。
自分のキャリアを広げていくタイミングだったので、パルムドールはよかった。カンヌからニューヨークに飛んで、出演交捗のため、ある俳優に会ったが、座った瞬間に「このタイミングだと断れないな」と言われた。