政治展望 2018 


新たな針路示す野党に

 


既得権益打破 リスク恐れず

 


前大阪市長
橋下 徹氏

日本維新の会創設者。早大卒。弁護士。2008年に大阪府知事、11年に大阪市長に当選。大阪市を特別区に再編する「大阪都構想」を提唱したが、住民投票で過半数の支持を得られず、15年12月に政界引退。東京都出身。48歳。



――「多弱」野党の評価と分析を。

 「だらしがない」の一言に尽きる。有権者は今、自民党支持か、支持政党なしだ。野党が国民のニーズをつかめていないからだ。保守かリベラルかという議論は不毛だ。国民はそんなことで生活していない。

 かつて政治家が「選ばれし者」だった時代は、自らの思想信条を有権者に語ることこそが政治だった。今は政治家が国民よりも上という時代ではなく、政治家による思想信条の押しつけは禁物だ。むしろ必要なのは、マーケティング。国民のニーズを一生懸命探ることだ。国民におもねるポピュリズムだと批判されるかもしれない。でも、成熟した民主国家では、国を誤らせない「正しい」ポピュリズムこそ政治の基本だと思う。

 ただし、国民のニーズとは目の前の利益のことだけではない。一時は批判が巻き起こっても、将来世代のことを思って改革を実行したり、新しい日本を導いたりする政治こそが、今求められている。


―― 昨年末に安倍首相と会食した。政権の評価を。

 安倍政権は外交・安全保障では歴代政権の中でも特に力強い成果を残している。

 強さの背景で注目すべきは、首相が柔軟に自分のスタンスを変えていることだ。例えば憲法9条改正では、首相は本来、9条2項の削除をやりたいはず。だが、現状では困難とみて1項2項を維持し、自衛隊明記という案を出した。これぞマーケティング政治だ。自らの思想信条よりも国民の意向を気にしていることが政権の安定につながっている。


―― 野党再建の道筋は。

 野党の役割は、一つは行政のチェック機能。もう一つは、現政権とは別の道を提示し、新しい日本の針路を導き出していくことだ。国民選択肢を示す意識が必要だ。

 野党は理念・政策の一致にとらわれすぎではないか。僕も同じ失敗を犯したが、そこにこだわり過ぎると集団として膨らまない。党内の価値観にある程度幅があっても最後は執行部決定や多数決で決めればいいだけ。これができないのが野党最大の弱点だ。

 自民党は融通無碍だ。9条改正賛成派も反対派もいる。自民党がウィングを広げるのなら野党も広げて幅広く国民のニーズをくみ上げることのできる体制にしなければならない。そうすることで最後は「決定」により自民党とは異なる、幅のある選択肢を示すことができる。

―― 2018年の展望は。

 野党にとっては大チャンスだ。自民党はまだまだ旧来の思想信条にとらわれているし、政府予算案も旧来の支持層に配慮した改革不足のもので、野党は新しい選択肢を出しやすい。

 個人の価値観重視、既得権益や中央集権体制の打破、目先のリスクを恐れず次世代を重視する視点――。

 僕なりのマーケティングでは「支持政党なし」という層や仕方なく自民党を支持している層を引き寄せることができる軸はいくつもある。将来にチャレンジするエネルギーみなぎる野党が誕生してほしい。


 

 


国民の価値観多様に


平成に一言

 平成時代は、政治家が思想信条を押し出す政治から、国民のニーズを重視する政治への過渡期だったと思う。

 米ソ冷戦が終結し、世界の構造が変わった。個人の価値観も多様になった。政党も当然変化を求められたが、自民党は対応できず、2009年には民主党に政権を奪われた

 そして自民党が再び政権を奪取し安倍政権になってからマーケティング政治の芽が出始めた。国民の意向がダイレクトに政権交代につながる小選挙区制国のたまものだ。

 ポスト平成は、政治が国民のニーズのくみ方を更にブラッシュアップさせる時代、すなわち「正しい」ポピュリズムを追求する時代になるだろう。国民からの直接的な支持を力の源泉にしていく政治は、これからの政治のあるべき姿だ。

 僕は8年間政治家をやった。マーケティング政治によって大阪で自民党に対抗できる政党を作ったと自負している。政界復帰はありません。向いてないもの。でも、こうやって日本の将来を考え、語ることはやっていきます。





小選挙区制

1選挙区につき1人だけ当選する選挙制度。同一政党が複数候補を擁立して争う中選挙区制から、2大政党による政権交代につながりやすい制度として1996年衆院選から導入された。世論の風向きで当落が左右されやすいとも指摘されている。

 

 

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