政治家が失敗するとき



再起には「理念・人・運」

 


 人生は失敗の連続である。日々これ後悔。それが市井の人の感覚だろう。ところが政治家という生き物は、めったなことで自らの非を認めようとしない。しくじったとでも言おうものなら政治的に追及されるためでもある。自己合理化や責任転嫁で切りぬけようとするのが常だ。

 こんどの衆院解散・総選挙ばかりはそれで通せなかったリーダーがいる。ついに希望の党の代表の座をおりた小池百合子・東京都知事と、民進党前代表の前原誠司氏だ。

 衆院選からはや1ヵ月。きょうからは各党の代表質問もはじまる。ちょっと落ちついてきたところで政治家の失敗を考えてみるのも悪くない。



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 まず、思いあたる歴代首相の失敗をあげてみよう。

 その1。決断の失敗。のるかそるかの最たるものは衆院解散だ。勝機をさぐるうちに身動きがとれなくなったのが麻生太郎首相である。20089月、自民党総裁に就任した直後に解散せず先送りした結果、総選挙で惨敗、政権交代をまねいた。願望先行からくる判断ミスだった。

 その2。人事の失敗。すぐさま思いだすのが19979月、橋本龍太郎内閣での改造だ。ロッキード事件で有罪となった佐藤孝行氏を総務庁長官に起用したことで支持率が急落、翌98年の参院選後の退陣につながった。

 第1次安倍晋三内閣も人事で、つをつけた。075月、事務所経費疑惑を追及されていた松岡利勝農相が自殺、後任に「ばんそうこう男」とやゆされた赤城徳彦氏を起用。直後の参院選で自民党が大敗し首相は9月に退陣した。

 いずれも世論の反応を読み違えた。判断ミスによる誤算だった。

 その3。言葉による失敗。政権の座から降りるきっかけをつくったものといえば、7810月、初の党員・党友による総裁予備選での福田赳夫首相の発言がある。

「予備選挙で敗れたものは国会議員による本選挙出馬を辞退すべきだ」

 ふたをあけてみると予備選大平正芳幹事長の後じんを拝した。総裁の座を退くしかなかった。

 宮沢喜一首相の失脚のきっかけになったのはテレビのインタビュー番組での発言だ。935月、政治改革について「私はやるんです。絶対にやります」と強弁。これが食言となった。7月の衆院選に敗北、自民党は下野した。

 いずれも判断ミスを誘ったのは退官だった。



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 願望・誤算・過信
――これが政治リーダーが失敗するときの3要素のようだ。

 希望の党結党で、いったんは安倍政権を追いつめるかと思われ、あっという間に失速した「小池騒動」。失敗の条件をすべてみたしていた。

 希望の党の創立メンバーの一人に聞いた。

 「都知事選から都議選へと向かうところ敵なしできた小池さん。うまくすればここで政権交代まで持っていけると思った。初の女性首相誕生を夢見ていたに違いない」

 願望が政治家を突き動かすのは当然として、現実を直視し、自らが置かれた環境を冷徹に分析しながら行動していくことが何より大事になるが、「小池さんは自分自身をコントロールできずに舞い上がっていた」とも解説する。

 民進・希望合流の交渉を進めた当事者にも聞いてみた。

 「小池さんは自分ひとりで何でもできるとすごい自信だった。まわりで小池さんをおさえることができるような状況じゃあなかった」

 やはり小池氏に過信があったのだろう。その思いが端的にあらわれたのが命取りとなった例の言葉だ。

 解散翌日の929日の「民進党全員を受け入れる考えはさらさらありません」のさらさら発言と「排除いたします」の排除発言である。猛反発をまねいた。ただ政府高官はそろって「政策が違う人と一緒に行動できないのは当たり前、となぜ突っばらなかったのだろうか」と首をひねる。

 ワンフレーズで、善悪二元論で、劇場型で、巧みにテレビを使い舞ってきた小池氏がテレビ政治のわなにはまった。自滅である。誤算だった。

 希望への民進合流を決めた前原氏についても、06年の偽メール事件につづくものだけに、詰めの甘さ、ためのなさなど政治家としての未熟さを指摘する声が絶えない。

 永田町では小池氏も前原氏も、リーダーとして終わったというのが一般的な見方だ。



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 はたしてそうか。再起の可能性はないのだろうか。身近なところに例があった。カムバックの「安倍モデル」だ。それにはおそらくポイントは
3つある。理念と人と運だ。

 再登板の12年の総裁選当時、尖閣諸島の国有化などでナショナリズムの風が吹いていた。それが保守の帆をあげていた安倍氏の背中を押した。時代が求める政治家や理念というものがあるものだ。

 周辺には挫折したあとも手のひら返しをせず、ふたたび押しあげようとした政治家や官僚、識者らがいた。


 首相は「待っていてはだめ。攻めなければ運はつかめない」と漏らす。幸運の女神の前髪をつかむためには政治的な勝負に出なければならないというのは一面の真理だ。

 小池、前原両氏は、民進党から旧社会党系を切り離し自民党に対抗する保守中道の勢力を結集しようとした。そのねらいや良しだ。人間は失敗する動物である。再起の3条件をつかめるかどうか。ここはあえて逆張りで、小池ガンバレ、前原ガンバレである。

 

 

 

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