明日への話題
臆病な男性と現実的な女性の嗜好
龍谷大学農学部教授 伏木 亨
味の素社が大規模な食嗜好調査を行つた。2000年のことである。調査対象者は5000人。全国の男女、各年齢層に及ぶ。 男女の間で好き嫌いが大きく分かれるもの。それは酸つぱい味である。どの年代でも男性は女性に比べて酸味が苦手だ。食体験が豊かとはいえない若い男女の間では違いは顕著である。
酸つぱい味には陰陽がある。未熟な果物や腐敗して酸つぱくなった食物の酸味。警戒すべき味である。もう一つは果物に含まれるクェン酸の酸味。クェン酸は細胞のミトコンドリア膜を通りやすい。即効性のエネルギー源である。
男性にとって酸味は警戒すべきネガティブな味。女性はエネルギーが得られるポジティブな味と捉えているのが面白い。
男は臆病というのはどうやら当たっている。実は実験動物も酸味が嫌いだ。生命維持のために神経質になっている。身の回りの男性に聞くといい。40歳くらいから酸つぱい味が食べられるようになりましたという男性が多い。決断するのに40年かかる。
臆病な男性が好きなのは麺や飯。無味のでんぶんやたんぱく質を大量に食べる。エネルギー源としては大きいが、本当に使えるかどうかは胃腸で消化してみないとわからない。「すぐにエネルギーになる甘い味や酸つぱい味ではなくて、未知の巨大なエネルギーにかける。ロマンがあるんですな」 と男は言いたそうだ。
女性はエネルギー源として約束されている酸味や糖の味にこだわる。女性の嗜好は現金なものなんだね、とは全世界35億を敵に回しそうで、決して口には出さないようにしている。