エコノフォーカス


ぬるま温の「心理改善」



景気回復実感なくても3つの「熱源」

値下げ/ネット通販/失業リスク減


 高度経済成長期の「いざなぎ景気」を超え、今は戦後2番目に長い景気回復期にある。企業収益は最高益の記録を塗り替え、日経平均株価が約26年ぶりの高値を付けた。裏付けるように統計から見える消費者心理も改善している。しかし聞こえてくるのは実感の乏しさを訴える声ばかり。ねじれはなぜ生じるのか、その背景を探った。

 

 「現在の生活にどの程度満足していますか」――。この問いにあなたはどう答えるだろうか。

 内閣府が1万人を対象にした6月の「国民生活に関する世論調査」では満足度(「満足」か「まあ滞足」と答えた割合)が73.9%と、22年ぶりに過去最高を塗り替えた。同様の質問を始めた1958年以来の最高値となった。



増えぬ賃金が影


 消費者心理を示す統計も軒並み改善した。日本リサーチ総合研究所によると、今後1年間の暮らし向きの見通しを指数化した10月の生活不安度指数は20年ぶりの水準に下がり、内閣府がまとめた10月の消費者態度指数も改善している。

 しかし明治安田生命保険の調査では夫婦が自由に使えるお小遣い額は2007年の調査開始以来最低を記録。潤っている実感が乏しいのは「賃金が増えた実感が薄いから」(第一生命経済研究所の熊野英生氏)だ。

 大企業の収益のうち労働者の取り分を示す労働分配率は約46年ぶりの低水準だった。18年の春季労使交渉で、安倍晋三首相が3%の賃上げを経済界にわざわざ要請したことは記憶に新しい。

 ではなぜ消費者心理は明るいのか。背景には3つの要因がありそうだ。

 1つめは小売店による日用品や食品の値下げだ。日銀幹部は「必需品の値下げを受け、消費者が将来の物価は上がりにくいだろうと予想すると心理は上向きやすい」と分析する。節約志向が和らぎ、旅行などにお金を振り向けるようになる。

 西友が644品目の値下げを発表するなど小売り大手の値下げが相次ぐ。生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)を構成する523品目のうち9月に前年同月より下落したのは185品目。全体の35.4%と、2年前の23.7%から増えた。

 内閣府のデータによると、消費者が予想する1年後の物価上昇率を計算すると10月は2.0%だった。3%前後だった15年半ばまでに比べて物価高の懸念が薄れている。



若者満足度高く

 2つめがインターネット通販の普及だ。必需品の値下げと同じ効果をもたらすとみられる。

 米マサチューセーッツ工科大学が日米中など10カ国を対象にネットと実店舗の価格差を調べたところ、日本はネットの方が割安な商品の割合が45%と最多で価格はネットの方が平均で13%安かった。スマートフォン(スマホ)の世帯普及率が7割に達した17年に入り、ネット通販の利用は急拡大している。

 3つめは失職の不安が小さいこと。有効求人倍率は1.52倍と世間は人手不足だ。その影響で厚生労働省によると17年の大卒男性の初任給は5年前より3.0%増えた。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「若い世代ほど雇用改善の効果が大きい」と話す。

 内閣府が調べた17年6月の生活への満足度をみると、18〜29歳の満足度は79.5%、30歳代は77.4%と全世帯平均(73.9%)より高かった。

 給与はそれほど増えないがモノの値段が安く余裕はある。失業の心配もなくそこそこ幸せ――。そんなぬるま湯の心地よさがうかがわれる。

 「現状への満足からは革新が生まれず、経済のベースの力が高まりにくい。政府の経済政策に注文をつけるムードも滞れがちになる」。みずほ証券の上野泰也氏は現状に警鐘を鳴らす。

 

 

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