テレビなど電子メディアと子ども
◆幼い子を育てている親の皆さん。子どもと電子メディア(テレビ、DVD、ゲーム、パソコン、インターネット、携帯電話、スマートフォン)との関係について、どうぞ関心をお持ちください。
(文 川端強)
「スマホに子守りをさせないで! 」 日本小児科医会
2013三年11月のある日のNHKニュースは、日本小児科医会が、「スマホに子守りをさせないで!」のポスターを作成して、各地の小児科医院などの待合室に配布するようにしたことを、報じました。日本小児科医会は、すでに2004年に「子どもとメディア」の問題に対する提言″を発表して、啓発活動を行ってきました。それから9年、私が「子どもとテレビ」について発信を始めてからでも20年に及んでいます。
この間、パソコン、携帯電話など電子メディアの発達は目覚しいものがあり、その影響は思春期の人たちから大人へと及んでいます。でも、少なくとも、それは、その機能を償うことのできる年令に限られます。けれど、タブレット端末やスマートフォンの出現は、擦帯メールやSNS (ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのレベルから一足飛びに、新たな、より深刻な課題を、幼い子と、幼い子を育てる家庭にもたらしています。
私は、もとより、調査結果を示して、その具体的な影響を示すことはできませんけれど、これまで、テレビについて考えてきた基本的な感覚として、とても心配な事態だということはわかります。
そのことを、小児科医の先生方は日常の診療をとおして実感されておられるのだと思います。今、このときに、貴重な提言です。日本小児科医会は医学という自然科学に拠る立場でもありますので、スマートフォンと幼い人たちの育ちの関連について長期間の一定規模の調査による証明(エビデンス)がされていないものを、具体的に表現することに配慮がされています。そのため、ポスターの表現も穏やかです。ですから、受け取り方によっては、そんなに深刻にとらえなくても・・・となるのかも知れません。けれど、私はそうではありませんので、私は、私の基本的な感覚をもとに、このことを考えてみようと思います。
スマホへの、およそ三つの懸念
@親と子のふれ合いへの影響″については論を待ちませんね。人は、とりわけ乳幼児期は、親とのふれ合いをとおして人になっていきます。言葉をはじめ、人としての能力のすべてといってよいほどのものを、親とのふれ合いによって身につけていくのです。これまで、テレビやパソコンや携帯メールが、親と子のふれ合いを、著しく弱めるものとして指摘されてきましたが、スマートフォンは、どうやら、それらをはるかにしのぐもののようです。スマートフォンに、長い間、気をとられている母親のそばで、小さい子が放っておかれている光景を、よく目にするように、なりました。
Aスマートフォンの、いちばんの特徴は、乳幼児期の子どもが自分で扱えるということです。簡単な操作で瞬間的に映像と音声がでてくるものに、小さい子が惹きつけられるのは当然です。絵本を見られるアプリもあるそうですが、そういうものは、そもそも絵本とは言えません。
乳幼児期からスマートフォンに接していて、どのような弊害があるかは衆知ですけれど、乳幼児期から過剰にテレビに接してきた子どもたちのことは、わかっています。そのことを、これまでこの特集で述べてきました。それは、比較的という但し書きをつけるとしても・・・言葉のカが弱い、集中力を欠く、短絡的な反応をする、攻撃的になる、情感に乏しい、想像力と思考力に欠ける、社会性に乏しい・・・などです。スマートフォンは、それを一層助長すると考えられます。それに、視力への影響もあるかも知れません。
Bすでに現在においても、青少年に限らず大人でも、電子メディア中毒が社会的な問題となっています。スマートフォンなどの電子メディアが、つねに手もとにないと落ちつかない、という状態ですね。小さいときからテレビの前に座りつづけたり、親の携帯電箭をいじってきた人たちに、電子メディア中毒におちいりやすい傾向があることが言われています。それに比して、電子メディアからできるだけ離れて育ってきた人たちは、電子メディアに客観的に接し、道具として使うことができる傾向があることは、私も見聞してきました。彼らは電子メディアにとらわれない、別の世界を自分のなかに持っているからのようです。
親の皆さんは、ご自身が生まれたときから電子メディアの発展のなかにいましたから、テレビ、SNSはもとより、スマートフォンについてのこのようなとらえ方に違和感を覚える方もおられるかも知れません。でも、私たちの世代は、今のような電子メディアのあふれる社会ではない社会を知っています。ですから、比較する目を持っています。耳を傾けていただければさいわいです。
皆さん方にとって、子どもを育てるのにむずかしい時代になったと、私も思います。赤ちゃんがむずがって泣いたり、幼い子が少しばかり聞き分けがなくて騒いだりしても、「うるさい!」という、非寛容な視線に身がすくむこともあるに適いありません。
そんなとき、スマートフォンを与えていれば、静かにしてくれて、周りに迷惑もかけずにすむということもあるでしょう。そのような、やむを得ないときがあるにしても、それでも、スマートォンのかわりに絵本を携えたり、懸命にあやしたり、手近な物で注意をそらしたり、そんな努力をながら、このときを乗り切っていってほしいと願います。そんな苦労は、きっと、のちのち良いこととなって返ってきますよ。