カッシーニ 最終章



 米航空宇宙局(NASA)などの探査機「カッシーニ」による土星探査が、いよいよ最終段階に入った。土星の輪の内側を通る最後の軌道に入り、9月には土星に突入して探査を終える。13年にわたる探査で、これまで知られていなかった土星やその衛星の姿を明らかにしてきた。中でも生命の存在する可能性を広げた成果は大きい。

 

生命存在の可能性広げる

 20年前に打ち上げられたカッシーニは2004年に土星を回る軌道に入り、土星の輪や表面、衛星を観測してきた。「一番の成果は、生命が存在可能な範囲が考えられていたよりずっと広いと明らかにしたことだ」と国立天文台副台長の渡部潤一教授は話す。

 土星にいくつもある衛星のうち、内側から2番目の衛星エンケラドスで厚い氷の下から海水が宇宙まで間欠泉のように噴き出していることを発見。成分分析から生命の誕生に必要な条件を備えていることを明らかにした。

 土星は太陽からの距離が地球の9・5倍と遠く、エンケラドスの表面は厚い氷で覆われている。それまでの研究で氷の下に海が広がることは予想できたが、海水が宇宙に噴き出しているのは大発見。カッシーニはエンケラドスの上空約50`bを通過して噴き出した海水を採取した。東京大学の関根康人准教授は「地球以外の海を実際に調べられたことは大きい」と強調する。

 関根准教授らは海水の成分を分析し、エンケラドスの海底に地球上で初めて生命が誕生したのと同じ「熱水」とよばれる高温の水が噴き出している場所が存在することを明らかにした。別の研究チームは微生物の食べ物になる水素の存在を確認した。直径が地球の約25分の1と小さく厚い氷で覆われた衛星が、太陽系の中でも生命が誕生する可能性が高いことを実証した。

 土星最大の衛星タイタンの探査も、生命が存在する場所の可能性を広げた。カッシーニから放出された小型探査機「ホイヘンス」は05年、厚い雲で覆われたタイタンに着陸し、地表の様子を撮影した。メタンが水と同じ役割を果たして地球とよく似た様々な地形を作り、メダンの海が存在することが判明した。

 従来は地球と同様に、地表に液体の水がないと生命は存在しないと考えられていた。しかしメタンが水と同じ役割を果たせるなら、メンに対応する生命も存在するのではないか、というわけだ。「メタンで可能なら二酸化炭素(CO2)や窒素でも生命が存在してもよいはずだ」(関根准教授)と可能性は広がる。

 土星が持つ輪(リング)でも、様々な発見があった。細かく30ほどに分かれていたほか、外側のAリングや内側のBリングの間に広がる「カッシーニの間隙」でいろいろな構造も見つかった。Bリングの質量は軽く、従来の推定の7分の1程度にとどまることなども分かった。

 特に研究者が注目したのはリングの一部に現れたプロペラのような形をした模様だ。土星の輪は、氷などの小さな粒が集まってできている。プロペラ模様は、中心にごく小さな衛星が存在することで作られたとみられる。しかし重力を考えるだけではプロペラのような形はできず、輪を作る粒のぶつかり合いまで考える必要があるという。

 こうした成果は「土星の輪の構造やでき方だけでなく、太陽系誕生の仕組みを考える手掛かりにもなる」と土星の輪のシミュレーション研究を手掛ける台坂博一橋大准教授は話す。

 土星本体では、30年に一度の巨大な嵐が詳しく観測されるなどの成果があった。土星は表面にもやがかかったような状態で、同じガス惑星の木星に比べても大気の動きが観測しにくかった。

 カッシーニが赤外線など様々な波長で観測することで、風の詳しい構造や渦がたくさんあることなどが見つかり、木星同様にダイナミックな大気の動きがあることがはっきりした。木星にはみられない巨大な六角形を描く気流も北極で見つかっている。

 これから土星本体に突入するまでの間の探査への期待も大きい。カッシーニは4月から、輪の内側まで入り込んで土星の間近に接近する軌道を取り、最後の観測を続けている。惑星大気の研究が専門の中島健介九州大学助教は「大気の深い部分の観測は、土星に接近するこれからが一番期待できる。重力の微妙な変化から内部構造も分かるのではないか」と語る。

 順調ならカッシーニは9月15日に土星に突入し、大気の成分などのデータを送ってくる。どこまで土星の姿を明らかにしてくれるか、最後まで目が離せない。

 

 

 

 




カッシーニ探査機 13年間にわたり土星調査


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 カッシーニ探査機は米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が開発した。1997年に打ち上げられ、7年かけて土星に到達した。以来13年間にわたって土星やその衛星を探査している。小型探査機ホイヘシスとともに土星の観測で知られる天文学者にちなみ命名された。

 カッシーニは高さ6.8メートル幅4メートルと小型バスほどの大きさだ。様々な波長のカメラやレーダー、磁力計、電波・プラズマ波測定器など多彩な観測装置を備えている。

 打ち上げ時は予想していなかったエンケラドスから噴き出す海水の分析には、宇宙に漂うちりを調べるために搭載した分析器が活躍した。

 

 

 

 

 

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