春秋

 

 

 もう30年も前のことだが、ひと夏を沖縄の石垣島、西表島など八重山諸島で過ごした。忘れられないのが小浜島で体験したお盆の習俗だ。人々は獅子舞や琉球拳法を披露し祖先を迎え、三日三晩、祈り、歌い、飲み明かす。宿の主人の手ほどきで太鼓をたたき、踊つた。

▼そこには死者と生者の確かな交流があった。小浜島の盆などの芸能は2007年、国の重要無形民俗文化財に指定された。お墓での花火や精霊流し……。この時期、月遅れの盆の営みが各地である。京都の「五山送り火」のように大規模ではないが今晩、迎えた霊を再び彼岸に送るため自宅で小さな火をともす人もいよう。

▼人が死ぬと霊は故郷へ向かう。歳月が過ぎると霊は個性を失い、他の祖霊と融合して氏神になり子孫を見守る。柳田国男は「先祖の話」でこう説く。本書は1945年春に執筆された。敗戦による人心の荒廃を予期したのか。柳田は驚くべき呼びかけをする。生き残つた者が散華した若者の養子になるべきだ、と言うのだ。

▼子をなさず戦死した若者を新たに私たちの先祖に迎え、彼らとともに戦後社会を再建することを提案した。柳田は民俗学を「省察の学問」と呼ぶ。悲惨な過去をより良い社会を形成するための力にすべきだとの倫理観が底流にある。72回目の終戦の日のきのう。戦没者追悼式の中継を見ながら柳田の言葉に思いを巡らせた。

 

 

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