核 心

 

置いてきぼりの既成政党

論説主幹芹川 洋一

 

「アメーバ型」の時代に


 選挙に敗れた政党では決まって引責辞任がある。それがだれによるかで、どんな総括をしているかがみえてくる。

 東京都議選で歴史的な惨敗を喫した自民党。すぐさま辞任したのは下村博文・都連会長だった。敗因は国政での安倍政治のミスによるものであっても、とりあえず東京という地域限定の選挙での敗北という受けとめ万である。

 もうひとり辞めた人がいる。民進党の松原仁・都連会長だ。くしの歯が欠けるように同党の公認候補が都民ファーストの会に流れ、政党として末期症状を呈していた。党執行部としては収拾がつかなくなるから、責任問題はこれまた地域限定にとどめておきたいのだろう。

 小池百合子知事が率いた都民ファーストの勝利とは、自民と民進という既成の二大政党の敗北と同義である。政権を担ってきた既成政党の否定こそが都民の判断だった。
 話は東京だけにとどまらない。経済だけでなく政治も、先進国間で似た動きをするらしい。昨年の米大統領選を思い出してみよう。

 民主党の候補者選びで最後まで残ったバーニー・サンダース氏は「民主社会主義者」を自称した。大企業からの献金を受けず金融機関を目の敵にするなど、民主党の枠を超え、体制に挑戦する姿が共感を呼んだ。

 ドナルド・トランプ氏を共和党の泡沫(ほうまつ)候補から大統領にまで押しあげた底流にあったものも、かねて指摘されているように既存の支配体制(エスタブリッシュメント)への反発だ。

 サンダース現象・トランプ現象を招いた背景には二大政党への失望があった。

 フランスでも4〜5月の大統領選で社会と共和の二大政党の候補があえなく第1回投票で敗退、決選投票に進めなかった。6月の下院選でも両党は歴史的な大敗となった。

 半年前は泡沫扱いだったエマニュエル・マクロン氏が大統領選で極右のマリーヌ・ルペン氏に大勝、下院選でもマクロン新党が6割の議席を獲得した。小池知事がしばしばマクロン大統領に自らをなぞらえるのも、展開が実に似ているからだ。

 駐仏公使もつとめた東京外国語大の渡辺啓景教授はフランスの政治状況について「既成政党に対する拒否反応がある。政党が共通の価値観を持ち政策を集約し利益をまとめていくものから、選挙に勝つために最大公約数的なもので集まっていく存在に変わってきているのではないか。『ポスト政党政治』の時代の到来を示している」と分析する。

 日米仏で共通するものは既存の大政党にノーを突きつけた「大衆の反逆」である。それは政党が自分たちの考えや利益を代弁しておらず、どこかズレているという有権者の感覚からくるのではないだろうか。

 政治社会学でS・M・リブセットとS・ロッカンの仮説といわれるものがある。20世紀中葉の欧州の政党は「中央/地方」 「政府/教会」 「農村/都市」「労働者/経営者」の4つの社会的な亀裂を反映していると論証、政党システムは社会的な状況や歴史的な条件に影響されるという見方だ。

 社会構造を映すかたちで政党が存在するのなら、政権を担ってきた政党でも経済社会の変化に対応できなくなれば退場を迫られることになる。

 日大の若井奉信教授(政治学)は次のように解説する。「イデオロギー対立がおわり、グローバル化によって社会構造も変化して政党間の対立軸がなくなった。そうなると政党は選挙の看板でしかなくなってくる」

 「政党が時代に即応していくには、特定の目的のため、変幻自在で不定形のアメーバみたいにゆるい連合体にならざるを得ない」

 「東京大改革」を訴えた都民ファーストはまさにそうだ。その結果、安倍自民への批判票の受け皿になり、民進をのみ込んだ。「大阪都構想」をかかげて躍進した大阪維新の会のときとほとんど同じ梼図である。

 大阪維新が日本維新になったように、都民ファーストは「国民ファースト」になっていくのだろう。

 ただ当選した顔ぶれをみると都民ファーストが永続的な政党に成長していくとは考えにくい。となると自民、民進両党がこれからどうしていくのかというところに返ってくる。単に2人の都連会長が辞めただけで済む話ではない。

 良しあしは別にして、もともと自民は政権維持の一点で、すべてをのみ込む、ゆるい連合体のアメーバ型の政党だった。だからここまで永らえてきた。

 都議選を通じてはっきりした「安倍1強」批判の背景には、安倍晋三首相が身内を厚遇し、自分の考えで党を塗り固め、強引に政治を運営しようとしていると受けとめられたことがある。

 今回とりあえず内閣改造・役員人事で目先をかえ風向きがかわるのを待つということのようだ。再起のためには首相が謙虚さや寛容さを示して人間的な信頼を回復できるかどうかにかかっている。

 民進は主要メンバーが総退陣し事実上の解党で、民主政権当時の負の記憶を消すしかない。あくまでひとつの例だが当選2回で前政調会長の山尾志桜里皇氏(42)あたりを代表に、国民ファーストと共同持ち株会社でも作り、再び政権交代を目的としたアメーバ型で出直すしかあるまい。

 新たな時代に対応した政党をいかにつくりあげていくのか、世界的な課題であることだけは間違いない。

 

 

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