宇宙のカケラ
あなたは、昔、魚だった?
胎内の赤ちやんの1日は、地球の1億年に相当するのです。
かって、生物のほとんどは卵の状態で生まれていました。ところが火山の爆発など、地球環境の変化により酸素が不足し、母体の中である程度まで育てる必要が出てきたことから、胎生ほ乳類の歴史が始まります。そこで赤ちゃんは、母体が動いても安全が保たれるよう、魚のような状態で羊水の中に浸かって進化する道を選びました。ちなみに、羊水の成分は海水に近いことがわかっています。
受精後約32日目の赤ちゃんはまだ魚の顔で、エラのようなものが見えます。約34日目になると鼻が口にぬける両生類の姿に、約36日目には原始爬虫類のような形に、約38日目にのどの器官ができ、約40日目に人間の顔立ちになります。つまり、地球が40億年近くかけて行った生物の進化を、人間の赤ちゃんは、発生からわずか40日足らずで駆け抜けてしまうのです。単純に考えれば、胎内の赤ちやんの1日は、地球の1億年分に相当することになります。すごいですね。つまり、胎内での個体発生は、地球が系統発生として生物を進化させてきたプロセスを、ものすごい速さで繰り返しているわけです。魚から両生類、爬虫類、ほ乳類、人間までの進化を、胎内ではたった8日で成し遂げるなんて、信じられませんね。これこそが、いのちの不思議であり神秘です。
生まれた赤ちゃんにとっての初めての試練は、”魚”との決別です。大きな声で泣いて肺の中に溜まったたくさんの羊水を吐き出し、肺呼吸に切り替えて、人間に生まれ変わるのです。私たちが、まばたきをするのは、いつも目がぬれていた魚時代の記憶が残っていて、陸では乾いて痛くなってしまう目を涙で潤して、痛みをとるための仕草だったのです。
生まれたばかりの赤ちゃんには自分と他者との区別がありません。「母親の胎内がすべて」だからです。しかし、産後の授乳が始まると、自分ではない別の存在がいることに気づきます。「自分」と「母親」の区別です。それが、数の「1」と「2」。そして自分と母親以外の第3の存在、たとえば、父親など他者との出会いから生まれる認識が「3」です。このように「1、2、3」という数の感覚は、生後まもなく形成される基本的認識力だと考えられています。私たちにとって、数えなくても瞬時に理解できる最大数は3までだといわれていますが、その理由は、大人になっても生まれた直後の記憶に支配されているからなのかもしれません。人間の誕生と数字の誕生の間にも、深いかかわりがあったなんて不思議ですね。
佐治晴夫
1935年生まれ。理学博士(理論物理学)。大阪音楽大学客員教授。宇宙創生にかかわる「ゆらぎ」研究の第一人者。著書に『からだは星からできている』(春秋社)、『THE
ANSWERSすべての答えは宇宙にある!』(マガジンハウス)など多数。