池上彰の大岡山通信
若者たちへ
時代見極める視点持とう
2017年 激動の予感
高校や大学を卒業し、新社会人生活の初日にこのコラムを手にした若者もいるかもしれませんね。そこで今回は、身近な情報源であるニュースの読み方について一緒に考えてみましょう。
まず、2017年の世界の潮流を大まかに捉えましょう。恐らく、16年のトランプ氏の米大統領当選、英国の国民投票による欧州連合(EU)離脱決定といった「あり得ない」と思われた出来事の波紋が大きく広がる年になるでしょう。100年後に振り返ったとき、世界史の転換点になる可能性があります。
□ ■ □
トランプ氏は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、既存の政治を否定して劇的な当選を遂げました。ところが就任後、実際に議論をまとめ、公約した政策を推し進めていく難しさにぶつかっています。
たとえばテロ対策のためイスラム圏からの入国を制限する大統領令は、裁判所によって一時差し止める仮処分が出ました。前政権が実現した医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案は撤回しました。大統領の不支持率上昇が報じられ、厳しさが増しています。
転じて欧州です。英国のメイ首相は3月29日、離脱」をEUへ正式に通知しました。これから交渉がスタートします。EU加盟国の離脱は初めての出来事です。加盟国間だけでなく、英国に進出している日本企業が他のEけ圏内に移転するか、世界にどのような影響が及ぶのか、注視する必要があります。
今年はEUの基礎となる「ローマ条約」を調印した1957年から60年の節目にあたります。欧州の人々は2度の大戦の惨禍を経験し、ひとつの欧州を掲げて平和の実現を目指してきましたが、その試みは大きく足踏みしています。
口 ■ □
これは大学の講義でも学生に伝えていることですが、ニュースは時代を知る窓であり、そこに見える風景は毎日、刻々と移り変わっていきます。大切なことは、世界がどの方向へ向かうのか、自分なりのシナリオを描きながら、次の展開に備えておくことだろうと思います。
その視点を養うには、毎日のニュースを知り、ときには歴史に学びながら、時代を見据える作業を重ねることです。たとえば米国が現代の「アメリカ・ファースト」・のような外交政策を最優先したのは、今に始まったことではないからです。
この作業を重ねていくと、将来の様子がおぼろげながらに見えてくるはずです。新聞やテレビで知るニュースは生きた教材でもあるのです。
時代を見極める視点を持つことは、自らの生き方や職業を考えていく上でも大いに役立つでしょう。学生時代には学校や先生が防波境となり、君たちを守ってくれ訂したが、これからは自らのアタマで判断し、人生を切り開いていかねばなりません。自分のことは、自分で守っていかなくてはならないのです。
人工知能(AI)の開発が急速に進み、人間の判断力や能力を超える日が来ると予測されています。しかし、自らの人生を決断するのは君たち自身です。人々があり得ないと考えていた出来事が起こる世の中だからこそ、時代を読むアンテナを高く張り、変化に備えておく必要があるのです。
好奇心と学び続ける意欲を失わなければ、きっと人生は豊かになるはずです。期待しています。