あすへの話題
仏・法・僧の回復
法隆寺管長 大野玄妙
東日本大震災の後、仙台や盛岡、福島など東北各地を何度も訪ねた。各地で読経したり合掌したり、FMラジオの特集番組に出演したりして回った。講演会にも呼ばれたが、宗教の話をしようとは思わず、もっぱら質問があれば答える時間に費やした。自分の目で現地を確かめ、地元の方々から話をうかがうことに注力した。
そこで見えてきたのは聖徳太子が篤く敬よう示された「三宝」、すなわち「仏・法・僧」を被災した方々が失っていることだ。仏は仏になること、つまり目的や理想。法は計画、指南書のこと。僧は仲間だ。家族と別れざるを得ない人がいた。隣近所と会えなくなった人もいた。目的も、人生計画も持てない。いくらインフラが回復しても解決しない問題だ。
そんな中、訪ねたある街では月に1回程度、行政が様々なイベントを催していた。将棋の手ほどきとか、人形作りとか、オルガン教室とか、人が集まるきっかけづくりだ。その会場で、女性と女性との会話が聞こえてきた。「○○さん、生きていたのか」 「どこにいたのか、心配していた」 「ここで会えてよかった」。
仏・法・僧を回復するには「僧」、仲間から取り戻すしかない。仲間ができて初めて相談ができ、計画を立てられ、理想も語り合えるよぅになる。そのためにも、こうしたイベントは大切だ。アーティストが来てもよいし、バザールでもよいし、何でもよい。
不幸に見舞われた時、あまりのつらさに黙りこんでしまう人がいる。そのような人が、ちよっと出かけてみようか、人と話してみようかという気になる。そんな雰囲気づくりが必要と感じた。