展望2017
トランプ流「革命」
英歴史家 ニーアル・ファーガソン氏
ポピュリズム(大衆迎合主義)の広がりやテロの脅威、難民問題などに揺らぐ世界。政治や経済はどこに向かうのか。2017年の展望と課題を内外の識者に聞いた。
―― トランプ次期米大統領を生んだポピュリズム旋風の原動力は何ですか
「グローバル化がもたらす経済的な不満だけでなく、マルチカルチャリズム(多文化主義)への反感も大きい。欧州連合(EU)からの離脱を選んだ英国と同じだ。移民の急激な増加にいら立ち、エリートのリベラルな価値観に共鳴しない中間層が目立ってきた」
「既存の政治は少数派ばかりに配慮し、積極的な差別是正措置を講じてきた。多数派の私たちはもはや重要な存在ではない。そんな疎外感を抱く白人の勤労世帯が多様性を重んじるオバマ政権下で増えた。人種差別という単純な言葉では片づけられない問題をはらむ」
―― 第1次、第2次の世界大戦前の風潮と重ね合わせる人もいます。
「1930年代に台頭したファシズムと、軍事的な要素を欠く現在のポピュリズムは全く違う。参考になるのは19世紀の後半だ。1873年の英国に端を発した世界的な大不況がポピュリズムを誘発し、自由貿易や移民、巨大な金融機関、腐敗したエリート政治家への反発が広がった」
―― 米国の内向き志向は世界の懸念材料です。
「19世紀後半のポピュリズムは庶民の生活を改善できず、帝国主義に基づく国際秩序を大きく変えることもなかった。しかし現在の米国が保護貿易や移民排斥に傾けば、当時よりもはるかに深刻な問題に発展する」
―― 来年はフランスの大統領選やドイツの議会選もあります。
「ポピュリズムが乱暴な選択なのは確かだが、現状を打破したいという健全な挑戦でもある。この流れは簡単に止められない。世界のグローバル化はやや行き過ぎたのではないか。自由貿易や移民拡大の限界も自覚し、少しだけ巻き戻した方がいいのかもしれない」
―― トランプ氏が掲げる経済政策には「光」と「影」があります。
「ケインジアン的な側面には警戒が必要だ。完全雇用の状態に近い米国で、インフラ投資の恩恵がどれほどあるのか。むしろ財政赤字や連邦債務の拡大を懸念する。それ以上に貿易戦争だけは起こしてほしくない」
「ただ経済的な心理は上向く可能性がある。同時テロやイラク戦争、金融危機などが重なり、2000年以降の米国は楽観的になれなかった。トランプ氏が空気を変えれば、長期停滞から抜け出せるかもしれない」
―― トランプ氏の外交・安全保障政策は超大国の針路を変えますか。
「革命といってもいい。親ロシア、反中国、反イランへの方向転換は世界に重大な影響を及ぼす。トランプ氏が台湾問題などで中国を強く刺激し、ナショナリズムをあおるのは問題だ。不動産取引の交渉とは違うことを肝に銘じてほしい」
「トランプ氏を孤立主義者と呼ぶのは誤りだ。しかし北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする同盟関係や、国連などの国際機関を軽視して、米国の指導力を低下させる恐れは残る」