AIに負けぬ「人間力」磨く
2017年も加速度的進化が見込まれる人工知能(AI)やロボット。世の中が便利になる一方で、現在の職業の約半数がそれらに取って代わられる可能性も指摘される。20〜30代の若手ビジネスパーソンは今後数十年の仕事人生を生き抜く上で、どのようなスキルを身に付けるべきか。AIやロボットをビジネスで活用する経営者らが提案するのは、創造性や教養など「人間力」の向上だ。
ハウステンボス社長 沢田 秀雄氏
旅や芸術で感性養う
――ハウステンボスの「変なホテル」では受付や荷物運びにロボットが使われています。
「世界一生産性の高いホテルを実現するため導入した。昨春に2号棟を開設し部屋数は144室と2倍になったが、スタッフは当初の約30人から8人に減らした。3年後はもっと進化しているだろう。三つ星や四つ星ホテルでは今後、コスト抑制でロボットの導入が進むかもしれない。しかし五つ星など最高級ホテルでのホスピタリティーの提供はロボットではまだ無理。人間との役割分担は進むのではないか」
「AIは蓄積した情報の分析や計算などは得意だが、画期的なものは生み出せない。人間には情報を新しく創造的なものに変えるスキルが最も必要となる。創造性が高まるよう感性を磨くには、多様な芸術や文化に触れたり旅をしたりすることだ。違う見方や考え方に触れ、現地のにおいや雰囲気を体感するといい」
――若いうちに何を学べばよいですか。
「20〜30代は知識を吸収する時期でもある。歴史やものの考え方をきちんと学ぶことが大事だ。全てを自身で経験することはできないので、『史記』や『孫子の兵法』、日本の戦国武将に関する本などを読むのもーつの手だ。同業者との競争には『ランチエスター戦略』なども参考になる。若いうちは吸収しやすく、その後の仕事で使う機会もあるだろう」
「夢や目標を持つことも大切だ。できるかどうかにかかわらず、大きな方がいい。こういう人間になりたいといった目標を持てばその実現に向けて何から踏み出せばいいかが明確になる。富士山に登るのか、エベレストかで第一歩は変わる。目標は短期、中期、長期で考える。毎日の積み重ねである短期目標の達成が半年程度の中期目標につながり、さらに10年以上の長期目標につながる」
―― AIの時代を生き抜くコツはありますか。
「世の中、良いときも悪いときも先が見え見いときもある。暗い気持ちにならずに、明るく考えていけば危機はチャンスになる。失敗や問題が起きたときほど『死にはしない』と開き直って元気にやることだ。どんな人間も失敗する、問題も抱えていると思えば楽になる。私もいっばい失敗しているが、最後に成功すれば過去は消える」
「経験値の高い指導者を見つけることも大事だ。最新のテクノロジーは通用しないかもしれないが、人間は切れば血が出るし、精神や人間的な問題は何千年も変わらない。コーチの知見から学ぶことは多い。ただ、自らも勉強してチャレンジし、行動していかないと知識だけでは駄目だ。ゴルフの本を100冊読んでも毎日練習している人にはかなわない」
「経営者を目指すなら、ある程度、財務諸表が読めた方がいいが、経営に関する全ての能力は必要でない。やれないところはよそから連れてくればいい。志の方が大事だ。企業は利益を上げないと発展しないし優秀な人材を雇えないが、この技術で世界に貢献したい、地域のために頑張ろうといった気持ちが大事だ。世の中のためにならない企業はいずれ滅ぶ」
ウォンテッドリーCEO 仲 暁子
プログラミングと英語を
――ウォンテッドリーではAIを活用した求人情報サービスを展開しています。AI時代に必要なスキルは何ですか。
「コンピューターのプログラミングと英語は必須で、身に付けておかないと可能性が限られてしまう。プログラミングは自分では書けなくても、どんな仕組みで動いているか理解した方がよい。3ヵ月あれば大まかなところは理解はできる」
「プログラミングの考え方を学ぶことはブランディングや商品デザインにも役立つ。専門の学校もあるが、インターネットを使えば独学でも最新の情報を入手できる。その際も、英語ができれば低価格で質・量ともに充実した内容を学べる」
――翻訳機能は著しく進化していますが、英語の勉強は必要ですか。
「プロジェクトを進める上で異なるカルチャーを背景に持つ人を動かすには、相手に何を言えば伝わるか、人を動かすツボを理解する必要がある。これは今の水準の翻訳機能では不十分だ。発音はきれいでなくてもコミュニケーションを取れるようにしておいた方が面白いキャリアが積める。運用力をつけるために、英語を使わなければならない環境に身を置くよう心がけるといい」
――ほかに必要となるスキルはありますか。
「ビジネス書でハウツーを学ぶよりも、海外で学術的に研究されたものや古典などを読み、音楽やアート、生物学など多岐にわたるリベラルアーツ(一般教養)を学ぶこと。多くの良質な知識を身につけ、引き出しを増やした方が意思決定の際など後々役に立つ」
「仕事ができる人がやっているのは任せられた仕事をやりきること、結果を出すこと。課題を分解して期限までの工程を管理し、漏れを防いで一つ一つやっていくことで、難しいことではない。テクノロジーは手段にすぎない。世の中をどうしたい、どういう世の中をつくりたいという理想や思想が明確な人が勝つ」
リクナビNEXT編集長 藤井 薫氏
統計学が強力な武器
――AIに太刀打ちするすべはありますか。
「AIは用途を限定した単調な反復や大量のデータを処理することが得意だ。対する人間は『GAI』、目的を自ら設定し(Goalsetting)、想定外のトラブルに対する説明責任や結果責任を引き受け(Accountability)、人との関係をおもんばかる洞察力(Insight)を備えている」
「AIは愛や信頼性などコピーできない情報やデータがない状況に弱い。単純作業は代替されても、トップセールスマンや優れた企画マン、リーダーシップで力を発揮している人々の能力は簡単に超えられない。IT(情報技術)リテラシーに加え、人間との関係構築や創造性は磨き続けることが大事だ。その点は意外と100年前と変わらないのかもしれない」
――これから何を学べばよいのでしょうか。
「日本のビジネスの現場はいまだに勘と経験に頼る傾向が強いが、今後は統計学が強力な武器になる。無料オンライン講座『MOOCs(ムークス)』などを活用して勉強するといい。あらゆるモノがネットにつながるIoTの普及で今後は大量のデータが出てくる。その中から最適なデータだけをすくい、相関と因果関係を正しく抽出するスキルは大事だ。さらに、その結果を相手に納得してもらえるように伝えることのできるヒューマンスキルも重要になる」
「STEM(科学・技術・工学・数学)分野は世界でニーズがある。コンピューターのプログラミング言語は英語のようなもので、世界共通言語として習得しておくと言葉や宗教が違う相手とむ握手できる。ほかに、音楽など趣味のようなことを極めれぼいいだろう。キャラクター、コンテンツ、コミュニケーションの『3C』を磨けばどこでもやっていける」
「実戦経験を積むために、勤務先以外でもキャリアを重ねるパラレルキャリアをお薦めする。特に大企業では若い人に打席が回ってこない。NPOなどに参加して関連の統計データやアンケート結果を分析したり、プロジェクトのマネジメントを手がけたりすることは貴重な経験になる」