日中韓 若者の幸せは?
3ヶ国の学生、本音語る
今どきの若者名にとって幸福とは何だろうか。日本、中国、韓国から各6人、計18人の大学生が静岡に集まり「幸福への期待」をテーマに話し合った。若者たちが意見をぶつけ合うと、社会や将来への不安など本音が出てくる、出てくる。それぞれのお国事情も浮かび上がった。
8月末に静岡県立大学で開いた「日中韓学生会議」は静岡県主催。年末に日本経済新聞が同県で開く「日中韓賢人会議」で学生の提言を生かしてもらおうというものだ。参加したのは静岡、中国・浙江省、韓国・忠清南道の学生。共通するのは首都や大都市と遠くない地方の大学という点だ。
幸福度は低く
国連の「World Happiness Report 2016」の世界幸福度ランキングでは157ヵ国・地域のうち日本は53位、韓国58位、中国83位と欧米諸国より順位が低い。この結果を踏まえ、各国学生の持つ幸福や不幸に対する考えを語ってもらった。
「今、韓国では地獄のような韓国という意味で『ヘル朝鮮』という流行語があります」と建陽大学の柳(ユ)イェスルさんが話し出した。韓国の大学生は勉強に追われ、大企業への就職の門は極めて狭い。だが、一部の裕福な家庭の子女や特例なコネを持っている学生は能力にかかわらず大企業に就職できる。この不公平感が「ヘル朝鮮」という言葉の背景にある。
公州大学の林書永(イム・ソヨン)さんも「韓国の学生は英語、パソコン、対外活動をこなし、さらに自分の外見にも気を配らなくてはならない」とこぼす。激しい競争と不公平さとが韓国の若者の悩みといえそうだ。
韓国メディアが日中韓米4ヵ国のツイッターやインターネット上のニュースから昨年分析した各国の幸福や不幸を感じるキーワードも紹介した。幸福感は、米国では「ピザ」や「チョコレート」「音楽」など日常的なものが多いのに対し、韓国では「コンサート」 「旅行」など非日常的なものが多い。「仕事や学校など日常からの脱出に幸福を感じるのです」 (柳さん)。日本や中国の学生も大きくうなずいた。
中国、浙江工商大学院の蘇琳さんは「幸福への影響が最も大きいのは、やはり経済が成長すること」だという。それでも「経済だけで幸福度の持続的成長はない」とし、具体的に環境や食品の安全性、格差拡大の問題などを例に挙げた。
急激な経済成長を続けた中国だけに、浙江万運学院の劉遷さんは「私の家庭は10年前は貧乏だったが、今では海外旅行にもいける」と、豊かさと幸福感の相関関係を唱える。そのうえで「他人のために何か役に立つことをすることで、また違った幸福を感じられる」。まさに衣食足りて礼節を知るといった形だ。
浙江理工大学の王寧さんは子どもの頃からビル・ゲイツに憧れ、入学後すぐ会社を興した。3年生の今、高校生や大学生に語学を教える会社で100人を超す講師を差配する。「学費も自分で稼いでいるけど、徹夜も多く、見ての通り肌も荒れている。起業の夢は達成したが、幸せかどうかというとちょっと考えてしまう」と本音をもらす。
そして日本。「物質的豊かさに反比例するように人間関係が希薄になった」 (静岡県立大の佐野萌子さん)。バブル後の低成長期に育ち、程々の穏やかな生活を志向する「さとり世代」の気質が背景にあると指摘する。経済成長期のような、皆が同じ目標を持ち一丸となって進むことから得られる達成感や一体感がわからないというものだ。
雇用や社会保障など将来に対する不安もある。「若くても経済的に結婚できる雇用環境、、子どもを安心して産める社会基盤、正規雇用の促進などが幸福度を高める」との意見が出た。すると中国の何逸超さん(浙江万里学院)が「非正規雇用って何? 日本人は終身雇用と学校で習ったのに、今は違うの」と質問、日本の学生を当惑させた。
渦巻く閉塞感
社会への不満は、どの国の若者にもある。しかし、いま韓国の学生が直面している競争社会の苦悩は切実だ。中国はまだ日本や韓国がかつてたどった「経済成長イコール幸福」という感覚があるが、貧富の差など急成長のひずみも出ている。
対して日本の学生の不安は、明るい将来が見通せず、なかなか解決策がないことからきている。自らを「さとり世代」といいながら、実際は悩んでいるのが現実のようだ。