130万人のピリオド
僧侶派遣 都市部でじわり
ネットで依頼料金定額
年間130万人もの人が亡くなる多死社会において、葬儀や法要で「僧侶派遣サービス」を利用する人が増えている。インターネットを通じて手軽に申し込め、料金も心付けなどを含めた定額制のためわかりやすいのが利点。仏教団体は「宗教行為を商品化するもの」と批判するが、菩提寺との関係が薄れている都市部に住む人たちを中心にじわじわと浸透。派遣サービスを手掛ける会社に登録する僧侶も増えている。
7月下旬、大阪市の柳谷観音大阪別院泰聖寺。兵庫県宝塚市に住む女性(49)が、副住職の純空壮宏さん(39)の読経に耳を傾けながら手を合わせた。4ヵ月前に亡くなった両親の法要だ。
泰聖寺は女性の菩提寺ではない。インターネットで僧侶派遣サービスを探し、泰聖寺が手掛けているのを知り、法要を依頼した。科金は、心付けなどを含む定額3万5干円。女性は「菩提寺とは疎遠になっている。僧侶派遣サービスは料金が明確で、きちんと供養をしてもらえるのがいい」と話す。
純空さんは、直接、僧侶派遣に応じるほか、インターネット上で葬祭プラン「小さなお葬式」を販売するユニクエスト・オンライン(大阪市)の僧侶派遣サービス「てらくる」などにも登録。昨年は年間120件の葬儀・法要に出向いており、「今年は150件程度まで増えそうだ」 (純空さん)という。
2013年5月から僧侶派遣サービス「お坊さん便」を手掛けるみんれび(東京・新宿)は、昨年12月からインターネット通販大事のアマゾンジャパン(東京・目黒)に「出品」を開始。15年の問い合わせ件数(受注件数は非公開)は1万件だが、16年はl万2千住に増える見通しだ。
料金は交通費、心付けなどを含めて3万5干円(税込み)。アマゾンを通じてサービスを利用した女性は「法要の際にいくら包めばいいのかわからない。『お坊さん便』はクレジットカードで先払いできるので安心」と話す。
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12年に檀家制度を廃止した埼玉県熊谷市の曹洞宗見性院は、住職の橋本英樹さん(51)を含め複数の僧侶が僧侶派遣サービス会社に登録。毎月、10〜15件程度の葬儀・法要に出向いている。葬儀・法要全体の2割程度といい 「昨年よりも増えている」(橋本住職)。
料金を定額化している僧侶派遣サービスは数年前から増え始め、現在は数十社(寺院を含む)が提供中とみられる。サービスが広がってきた背景には、利用者側と寺側双方の事情がある。
核家族化が進み、葬儀の形態も一般葬から家族葬へ移行するなかで、都市部に住む人たちを中心に菩提寺に頼る例が減ってきた。寺とつながりがない人は、どこに法要を頼めばいいのか分からない。さらに、葬儀・法要の際に「お布施の額はお気持ちで」と言われ、戸惑ってしまう人も多い。サービスが普及した大きな理由は「『寺離れ』と分かりやすい料金設定」と泰聖寺の純空さんは指摘する。
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一方、寺側には檀家の高齢化や少子化などから経営が厳しくなり、収入確保のために派遣僧侶となる動きが見られる。「お坊さん便」の登録僧侶は、アマゾンでの取り扱いもあり、昨年の約400人から現在は約500人に増えている。大阪府の登録僧侶(46)は「普段、寺と付き合いのない人との接点が生まれ、信者を増やすきっかけになることも期待できる」と利点を強調する。
「宗教のビジネス化」
仏教界からは中止要請も
仏教界では派遣僧侶に対し否定的な意見が多い。昨年12月、アマゾンジャパンのサイトで「お坊さん便」の取り扱いを開始すると仏教界はこのサービスに反発。主要宗派が加盟する全日本仏教会は今年3月、「お布施は見返りを求めない修行の一つ。定額表示は宗教のビジネス化だ」として、販売中止をアマゾンに要請した。しかし、アマゾンは、現在も販売を続けている。
僧侶派遣を手掛ける側からはこんな意見が出ている。見性院の橋本住職は「仏教界は『お気持ち』という曖昧な言葉で高額なお布施を取ってきた」と指摘。「お守りやお札は金額を明示してあるのに、お布施だけが例外なのは説明がつかない」と話す。一方で「お布施が一般の商品のように扱われるのに抵抗がある」 (60代の女性)と一般の人からも仏教会の意見に賛同する声がある。僧侶派遣サービスは、トラブルを避けるため、利用の際には菩提寺に許可を得ることを求める例が多い。だが、菩提寺との結びつきが強い地方の檀家などは「今までお世話になってきた。そう簡単にはいかない」 (70代の男性)と「関係解消」には慎重だ。
仏教界の反発が大きく報道され、かえって僧侶派遣サービスの認知度が高まったとの見方もある。利便性が高い葬儀・法要を望む人たちが増えるのは確実。時代に即した葬儀や法要のあり方について、議論は続きそうだ。