タックスヘイブンって何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 


 

イチ子 タックスヘイブンは個人のお金や、会社のもうけに対して税金をかけないか、他の国より低い税率しか課さない国や地域のこと。英語でヘイブン (haven)は「避難する場所」の意味で、「天国(heaven)」という意味ではないの。お金持ちや大企業がお客さんよ。


 からすけ 言葉を聞いたとき「税金を払わずにすむ天国」だと思ったよ。


 イチ子 ふふ。中米のパナマや、カリブ海に浮かぶ英国領のケイマン諸島が有名よ。世界中で多く見積もって70ほどの国や地域がそうらしいの。小さな国ばかり。会社のもうけにかける税金は法人税というのだけれど、国際的な会計事務所の調査では、バハマやケイマン諸島の税率は0%。日本は約30%、米国は40%。会社は本社を置く国に納税するのが決まりなの。


 からすけ なるほど。


 イチ子 19世紀後半から20世紀前半に仕組みとしてできたタックスヘイブンは、資源や産業が乏しい国の生き残り策だったの。法律に違反した脱税ではなく、合法的に節税できる仕組みでお客を呼び込もうとしたのね。ここに本社を置く企業は法人税がゼロか少ないから、節税に詳しい弁護士や税理士の力を借りて、登記上の企業、つまり書類上だけの本社を置く仕組みを国を挙げて整えたの。


 からすけ 書類上って、人が働いていないの?


 イチ子 そんな会社はペーパー力ンパニー(キーワード)というの。簡単につくれるわ。お金持ちも、実際に住んでいる国から所得を移して、所得を管理する会社としてつくるのね。タックスヘイブンは税金をかけない代わりに、会社を登記する手数料をもらうわ。それが国にとっての収入源。手続きにくる人が落とすお金も多いわ。銀行も進出するから金融関係の仕事む生まれるわね。


 からすけ 南の島にボクも行ってみたいな。


 イチ子 タックスヘイブンがお客に用意した仕組みとして「お客の秘密を守る」というのもあるの。会社の内容から銀行口座の持ち主まで、よその国に教えないのがウリよ。


 からすけ 誰でも会社等置きたがるよね。


 イチ子 その通り。利用が膨れあがったの。その結果、会社は実際の本社がある所、お金持ちは住んでいる所に少なめに納税するようになっちゃったの。国際決済銀行(BIS)という国際機関の2009年の統計では、世界各国は日本円にして年間30兆円弱もの法人税を失っていたの。
 からすけ 入るはずの税金が入らなかったら、国のやりくりも大変だ。


 イチ子 それから私たちのお父さんのように、お給料から税金を引かれる人たちの間で不公平感が強くなっているわ。日本をはじめ主要国は、タックスヘイブンの利用が不透明だと問題視しているのだけれど、そこに世界の政治リーダーや家族、友人などがタックスヘイブンを利用し、税金逃打をしていたと暴露する「パナマ文書」 (キーワー一ド)が出てきたのよ。


 からすけ 脱税なの?


 イチ子 文書に登場するのは英国のキャメロン首相など大物ばかり。みんな脱税ではなく、自分の国の法律に照らし合わせて違法ではないと主張しているわ。でも、北欧のアイスランドでは納税をお願いする立場のリーダーが外国に資産を移して節税に励むのはおかしい、と国民が怒って、首相が辞任したの。


 からすけ 示しがつかないってことだね。


 イチ子 利用する側にとって、秘密を守満という仕組みが好都合だったわけね。でも今回の秘密文書のおかげで、パナマなどはこれから、問題があるとされた会社やお金持ちの銀行口座の情報を、問い合わせのあった国に教えるそうよ。課税逃れについて、世界中でちゃんとルールをつくれないかという検討も始まったの。タックスヘイブンのあり方も、今後変わっていくかもね。



サミットで妥協点探って

渋谷教育学園渋谷中学高等学校の真仁田智先生の話


 課税逃れを国際的に規制すべきだ。各国は独自に税を課す権利ある。グローバル企業が節税するのは当然……。どの意見が正しいか、多数決でも決められない難問です。19世紀、ドイツの鉄血宰相ビスマルクが「政治とは妥協の産物」と述べたように、議論の場で意見を主張しあう中から、譲歩しあい妥協点を探るしかないのです。

 多様な意見が飛び交うグローバルな世界では、自分たちの意見もその中の一つでしかありません。議論の進め方として「囚人のジレンマ」で有名なゲーム理論も活用できます。相互依存的な関係にある国家や企業が、対立と協調から両者にとって最適な選択を導きだす方法です。今月、三重県で開かれる伊勢志摩サミットでもタックスヘイブンについて話し合われます。自分ならどう主張するか、考えてみませんか。

 

 

 

もどる