英国、EUからぬけるかも

 

移民に仕事を奪われ不満

 


 

 

 イチ子 英国ではロンドン市長がEU(キーワード)から抜けることを支持したそうよ。世論調査でも「抜ける」と「残る」が同じくらいになってきたの。どうなるか分からない情勢ね。

 からすけ なぜ抜けたいと思う人が増えているの?

 イチ子 移民問題が大きいといわれているわ。経済が好調な英国にはEU域内の国から多くの移民が来ているの。例えば英国に住むポーランド人は2004年からの10年間で10倍になったらしいわ。移民が増えて仕事が奪われたと不満が高まっているの。

 からすけ 何で増えたの?

 イチ子 04年にEU加盟国が一気に増えたの。それまで15カ国だったのが25カ国になったわ。チェコやハンガリー、ポーランドなどの東欧諸国が加わったの。所得の低い東欧かち仕事を求めて英国に殺到したってわけ。

 からすけ 入国を制限すればいいんじゃないの?

 イチ子 それが簡単にはできないから問題なの。EUは加盟国の間でモノや人が自由に移動できるように、という考え方で生まれたからよ。EUに加盟している限り移民を抑えることは難しい、と考える人が増えてきたのね。

 からすけ EUって前はECと言ってたような……。

 イチ子 よく知ってるわね。1967年にEC(欧州共同体)として発足したの。それが93年にEUになったのね。さらにさかのぼると、52年に発足した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)がルーツといわれているわ。資源を巡る争いをなくして欧州を平和にする狙いがあったようね。最初はドイツやフランスなど6カ国で始まったの。英国が加盟したのは73年のことよ。経済的にメリットがありそうって考えたかららしいわ。

 からすけ 最初からじゃないんだ。

 イチ子 そこがドイツやフランスとの温度差を生んでいるともいわれているわ。英国は経済的なメリットだけを求めているって。実は英国は75年にも一度、ECから抜けるかどうかを国民投票で決めているの。当時は「英国病」なんて言葉もあったほど経済状態が悪かったから、残った方が有利と判断したみたい。

 からすけ 国民投票までしたのか。

 イチ子 英国はEUの中でも特殊な立場なの。通貨はユーロを使わずポンドのままだし。国境をまたぐときのパスポートチェックを省く「シェンゲン協定(キーワード)」に参加していないなど、特例を認めさせているの。それでも不満が収まらないようね。

 からすけ 移民のはかにも問題があるの?

 イチ子 ユーロ危機のあと、EUは危機がまた起きないように銀行などへの規制を強めようとしているの。例えば今議論している金融取引税は、株の取引に税金をかけかって話。世界の金融センターとして発展してきた英国は大反対ね。ユーロを使っていないのにとばっちりを受けたと感じる人もいるみたい。EUに足を引っ張られるより、中国など成長しているアジアと手を組んだ方がいいという意見もあるわ。

 からすけ もし英国がEUから抜けたらどうなるの?

 イチ子 英国はEU加盟国の中でドイツに次ぐ経済大国よ。域内の国内総生産(GDP) の16%を占めているの。EUは市場を大きくすることで域内の経済活動を活発にしてきたから大打撃ね。EUに不満を持つ他の加盟国が騒ぎ出して、EUが不安定になることも考えられるの。ヨーロッパの団結力が少し弱まる可能性もあるかもしれないわ。

 からすけ 英国にとってはどうなの?

 イチ子 英国の輸出の半分はEU向けなの。EUから抜けたら加盟国向けの輸出に税金がかかるようになるわね。新しく貿易協定を結ぶ必要があるけど、時間もかかるし今よりは条件が悪くなるでしょうね。輸出手続きも面倒になるから、企業が本社を移す可能性がある。企業の英国離れが進んで、GDPを数%押し下げるともいわれているわ。

 からすけ 何だか抜けるのも残るのも大変だ。

 イチ子 キャメロン首相は残留を呼びかけているの。抜けた場合に英国が負うリスクを訴えているのよ。いざ抜けるとなると、世界への影響も大きそう。6月の国民投票はかなり注目されそうね。

 

 

 


もっと教えて   国の貧富差 溝を生む

 灘中学校・高等学校の薮本勝治先生の話

 今から約百年前。夏目漱石は、3年間の英国留学中に「個人主義」について考察を深めました。後に、個人主義とは他人を顧みずに自己主張することではなく、他者を自分と同じように尊重する態度だと説いています。漱石はまた、短編集「夢十夜」で、前世で男に殺された異人がその男の息子に生まれ変わり恐怖をもたらす話を書いています。不気味さにぞっとしますが、異人への仕打ちは自分に返ってくる、という教訓も読み取れそうです。
 そして現在。EU圏では、英国などの豊かな国が貧しい国や難民に対する支援の負担を求められ、不満が募っています。理解できる一方、個々の人々に思いを致せば、貧しい国に生まれたがために苦境を強いられるのも理不尽に思われます。漱石に思索を促した英国の個人主義は、他国や難民との関係において、どんな態度を表明するのでしょうか。

 

 

 

 

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