池上彰の大岡山通信 若者達へ
学力をどう測るか
常識破る「正答すべて選べ」
大学入試シーズンもヤマ場に入りました。電車の中で参考書に目を通す若者たちの姿をよく見かけます。インフルエンザに負けずに頑張ってほしいところです。
大学入試は、その大学が求める学力レベルの学生を選抜することが目的です。問題の質により、求められている学力を窺い知ることができます。試験問題が受験生のレベルを左右するともいえるでしょう。
かつての共通1次試験や現在の大学入試センターの試験問題は、「大学に入りたいと思ったら、せめてこの程度のレベルの問題をそれなりに解けるようになってほしい」という基準を示すものになっています。
難問だと「高校教育に悪影響を及ぼす」と批判されますし、問題がやさしいと、受験生は「この程度の学力でいいのだ」という安易な気持ちになります。センター試験の問題のレベルが、日本の受験生の学力の基準になってしまうのです。
高校での学習範囲を逸脱することなく、しかも大学での授業についていけるだけの基礎学力を見る。入試問題を作るのはむずかしいのです。
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入試で永遠の課題は、記述式だと採点に時間がかかり、マークシート方式だと学力の一部しか見ることができないこと。
そこで文部科学省は、2020年度から新しい形式の試験「大学入学希望者学力評価テスト」(仮称)を導入しようと検討を始めています。
このテストの狙いはマークシート方式を残しつつ、国語と数学から記述式を導入すること。また受験の回数を増やし、受験生にとって「一発勝負」にならないようにすることです。
ところが検討が始まると、「試験が年に何度も実施されると、高校での授業に支障が出る」などという批判が高校側から、「記述式では採点に時間がかかり過ぎる」という声が大学側から出ています。高校と大学の双方を満足させる入試問題。これは難問です。
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新しいテストでは、マークシート方式の問題も新しくなります。先日、物理と世界史の問題例が発表されました。本紙では2月18日付朝刊に一部が紹介されています。
物理の問題は、私にはとても評価できないので、世界史の問題例を見ました。これが、なかなかよくできた問題なのです。
日本、中国、西欧、旧ソ連の国内総生産(GDP)の推移を示したグラフが提示されています。旧ソ連地域以外は、A地域、B地域などと表示され、どの地域かは一見わかりません。グラフを読み解くことで、どの地域なのかを推理し、その上で問題を解かなければなりません。
とりわけ驚いたのは、解答として列挙されている文章のうち、「適切なものをすべて選べ」という出題があることです。
正解は一つだけ、という受験生の常識を打ち砕きます。しかも、正しい答えがいくつあるのかわかるためには、正確な知識が求められます。
正解が一つだけなんて、学校の試験だけ。それを大学入試の試験問題が教えてくれるのです。
でも、私が受験生だったら、こんな問題は嫌だろうなあ。