The Economist    全人代が描く未来、信用できるのか


 指導者というのは時折、すべてが順調だと主張しすぎる傾向にある。年に1一度、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の代表者およそ3000人が北京に集い、共産党の指導部がすでに秘密裏に下した決断を形式的に承認する。李克強首相は3月5日の開幕に際し、中国は今年までに完了するよう定めた5年前の主な目標をすべて達成したと発表した。

 国家計画を担う高官は全人代を取材する報道陣に、中国経済がハードランディングに見舞われることは「絶対にない」とも語った。全人代の常務委員会委員長は、政府は憲法(言論と集会の自由が明記されている)を完全に順守して行動すると述べ、習近平国家主席は代表団に向かって、有能で正直な官公吏が昇進すると語った。

   成長目標の実現  中央政府頼み

 全人代のこのとことん明るい調子に納得する人はほとんどいないだろう。李氏は演説で、成長を下支えするために追加刺激策が近く打ち出されることを示唆し、商品市場はそれに反応して多少上向いた。だが、2010年代末までの中国の経済見通しに対する弱気心理は、依然、国内外に蔓延(まんえん)している。

 中国の指導者たちーーかつて、長く、目覚ましい経済成長期を実現したことで広く称賛された人々ーーが今、景気が減速する中で四苦八苦しているとの認識が広がり、その弱気心理はいっそう悪化している。

 今年についていえば、李氏は国内総生産(GDP)成長率の具体的な目標を掲げる従来の慣行を巧みに避けた。代わりに6・5〜7%という目標レンジを発表することで、自身に一定の弁解の余地を与えた。

 世界的な基準に照らすと、まずまずの成長率といえるだろう。中国にとっては、昨年と同程度になるはずだが、追加の刺激策なしで目標を達成するのは難しい。また、中国の近年の実績を見れば、景気刺激策は結局、無駄なプロジェクトと成り果て、一段と大きな不良債権の山をもたらし、経済の首を絞めかねない。

 李氏は、成長目標を達成するために、各地方政府が建設プロジェクトを行うより、むしろ中央政府の財政・金融政策により重点を置いていく意向をほのめかした。さらに、財政赤字がGDP比3%に達し、昨年の2・3%の目標より高くなること、通貨供給量(M2)の伸びの目標を13%増とし、昨年の12%を上回るとした。小幅な調整に聞こえるかもしれないが、少し上げる一助になるはずだ。金融政策はすでに緩和されている。今年1月、中国の銀行による新規融資額は2.51兆元(3850億j)にのぼり、単月としては過去最大を記録した。


    新5ヵ年計画   達成容易でなく


 長期展望はより気がかりだ。10日間の会期における全人代の責務の一つは、習氏が起草を指揮した中国の第13次5ヵ年計画を承認することだ。李氏は予想通り、今年から20年までの計画の対象期間に、6.5%の平均年間成長率を目指すと述べた。だが、「極めて複雑で困難な国際環境」や国際貿易の減少といった問題のせいで、目標の達成は容易ではないと認めた。党内の迷信深い人は不安になるだろう。13という数字が中国で不運を暗示するからではなく、5ヵ年計画の創始者であるソ連が第13次計画に乗り出すや否や崩壊したからだ。

 本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、新計画の全文は公表されていなかった。だが、これまでに公開された断片的な情報は、中国がなんとしても行わなければならない経済改革を表現上は行うとしている。李氏は、市場の力の「決定的な役割」と「供給サイドの改革」の必要性に対する政府の信念を改めて表明した(後者については、経済の最重要分野における非効率な国有企業の支配を弱めるなど、構造改革の必要性を暗に示している)。

 しかし、これまでの指導部の改革の試みはさほど思い切ったものではなかったし、李氏は今回、新たな対策を近く打ち出す気配も見せなかった。実際、手に負えなくなった投機を抑制する策として長年温められてきた不動産税導入の可能性にさえ触れなかった。新計画には、効果の疑わしい投資計画が含まれている。20年までに新たに50の空港を建設したり、辺境チベットにつながる2本目の鉄道路線を建設したりするといった計画だ。

 5ヵ年計画は、30年までに中国と台湾を結ぶ総延長126`の高速鉄道を建設することまで提果している。万一、実現するようなことがあれば、これは世界で最も長い鉄道トンネルになるが、台湾に発言権があるのなら、実現する可能性は極めて低い。

    習氏の関心は  経済より権力か


 習氏は経済改革に専念するより、自身の政治的支配力を高めることで頭が一杯であるように見える。全人代が開幕するわずか数日前、当局は元不動産デベロッパーで共産党員の任志強氏が運営するソーシャルメディアアカウントを閉鎖した。彼は3800万人のフォロワーを誇るこのアカウントを使い、メディアに対する党の統制強化を図る習氏を批判していた。

 全人代の会期中には、検閲官らが、北京の経済誌「財新」が掲載したオンライン記事を1本削除した。財新は「愚法なコンテンツ」を投稿したとされたが、見た限り、全人代のアドバイザーが「自由にものを言う権利は守られなければならない」と語ったと報じたことがその理由だった。

 楽観論者は以前、政治的な支配を確立した習氏がいずれ、改革に二の足を踏む人々を攻撃するためにその権力を使うようになると考えた。その期待は完全に消滅したわけではない。だが、習氏が望んでいた政治的支配力を手に入れたのかどうか、また改革にはあまり興味がないのか、それともまだ政治的には安泰だと感じていないのかを見分けるのは難しい。党総書記の座を引き継いでから3年以上たったが、反対勢力をつぶそうとする習氏の精力的な努力からは、絶大な自信はうかがえない。いずれにせよ、共産党の5ヵ年計画によって改革を進めるだろうという期待と、習氏の個人的な思惑を一致させるのは難しいのかもしれない。


(3月12日号)

 

 

 

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